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会部 の続き




 疲労の跡が色濃い頬に手を伸ばしかけて、触れる権利はないと思い返す。
 結構乱暴にした自覚はあったが、こいつは泣きもしなかった。いつもと違い隣に人がいるせいか声も極力抑えて、噛み締めた唇には血が滲んでいる。互いに果てた瞬間ふっつりと意識を失い、今に至る。
 戻らなきゃならないのだと、うわごとのように幾度も呟いていた。
 作業が大詰め、というのは本当なんだろうな。
 溜息をついて、吸っていた煙草を灰皿になすり付けた。火が消えた瞬間ほわりと煙が立ち上る。
 ……隣へ行くか。
 大詰めということは、基礎のプログラミングまでは終わっていてバグ取りなり調整なりそういった部分に取り掛かっているんだろう。多少ならわかるし、それくらいならこいつの代わりができるだろうと算段をつけて立ち上がった。
 ざっとシャワーを浴びて着替える。
 出る間際にベッドに足を向けると、そいつはすぅすぅと気持ち良さそうな寝息を立てて眠っていた。これならしばらく起きることはないだろう。
 そう判断して、隣室へと向かう。
 持っていた合鍵でドアを開けた途端、四対の視線が一斉に突き刺さった。
 どう見ても歓迎ムードとは程遠い。当然か。
 大事な大事な部長様をかどわかした俺は、こいつらにとって極悪人とも言えるだろう。
「ぶ、部長はどうした」
 震える声音で、絞り出すように言葉を紡いだ相手をじろりと睨みつける。
「ひっ」
 それだけでおとなしくなってしまった。ちょろいもんだ。
 こいつらを脅す為に来たわけじゃないので、さっさと用件を告げた。
「あいつは俺の部屋で寝ちまったから代わりに来た。何をやればいい?」
 そう言って部屋に上がる。困惑と怯えの入り混じった視線が向けられるのは居心地が良いとはいえなかったが、まあ仕方ない。
 とりあえず空いているパソコンを立ち上げ、その前に座ったが、指示を出してくるものはいない。ややイラついた形で俺はもう一度そいつらに告げた。
「さっさと何をやればいいか言え」
「そ、そんなこと言われても……」
「多分シロウトじゃわかんないしなぁ」
 ぼそぼそと仲間同士で視線を交わしあいながら何やら言っている。俺に対してというより、仲間内でどうしようかとはかっている雰囲気だった。出来れば面倒だから追い出したいという気持ちがありありと見える。
 ……まあ、こっちのスキルを伝えずに何かさせろといわれても、信用ならないのは当然か。
 こほん、と一つ咳払いをする。
 びくっとしそいつらの視線がこちらに集中するのを確認してから、口を開いた。殊更ゆっくり、聞き取りやすいように言葉を連ねていく。
「簡単なスクリプトなら打てる。単純に打ち込みなら一時間当たり5キロか6キロってところだ。バランスの調整とかそういうのは出来なくもないがものによる。基本の設計は知らんから、デバッグが足りなければそっちに回ったほうがいいだろうけどな。他に聞きたいことは?」
 告げた言葉に、部員たちの顔色が変わる。
 さっきまでの警戒が完全に解けたわけではないが、少なくとも俺が奴の代わりに手伝うといっているのが真意であることくらいは理解したらしい。
 ……一応、補足はしておくか。
「言っておくが、あいつと比べるんじゃねーぞ。作業量でいうならアレの半分程度だと思ってくれ。ゲーム作りに必要な作業は一通り出来るが、習熟してるとはいえない」
 あいつよりも劣っている部分を自ら認めるのは癪だが、まあこの際仕方ない。余計な見栄を張っても、虚勢でしかない以上この場では迷惑を掛けるだけだと判断して、努めて冷静に言葉を紡いだ。
 奴らはこちらを伺いつつ、ぼそぼそと何やら話し合っている。どうするか決めかねているようだった。
「──あの、」
「何だ?」
 おずおずと一人が口を開き、それに応じる。やや怯んだようにそいつの喉が鳴ったが、震える声で言葉を続けた。
「部長……部長は、どうしたんだ?」
「寝てるって言ってるだろ。疲れたんだとよ」
「でも、さっきまでは別に……」
 なおも食い下がろうとしたそいつをギロリと睨みつければ、ひっと息を飲む。……そんなにすぐ怯むなら、何も口にしなければいいんだ。
「あいつは寝てる。もし起きてきたとしても、作業は無理だろうな。アテに出来ないと思っておけ」
「そんなぁ……」
「……部長がいないって……」
 あからさまな落胆の声が方々で上がる。
 ひとしきり嘆きかわしたそいつらの、恨みがましい視線が俺を見据えた。
「……じゃあ、とりあえずデバッグを」
 どうやら実利をとることにしたらしい。不承不承、という印象を隠そうともしない態度は、いっそ潔いと思えた。別にこいつらに好かれたいとも思ってないしな。
「了解」
 IPメッセンジャーを立ち上げて、ファイルを受け取る。その辺りの淀みなさに、ようやくすこしだけ安心したらしい。空気が、少し柔らかくなった。
「会長は何か飲む?」
「要らん」
「あ、俺お茶ちょうだい」
「うい」
 飲み物の補充を済ませると、しばらくはキーを打つ音だけがその場を支配した。大の男が5人もいるというのにここまで静かだと正直言って不気味だ。
 まあ、うるさくされても迷惑なんだが。
 ──それにしてもつまんねーゲームだな。
 珍しくノベルゲーに手を出してみたらしい。グラフィックはそれなりだが、いかんせんシナリオがひどかった。なんだこの砂糖菓子に蜂蜜かけて食ってるみたいな話は。いくらギャルゲだからってこれはないだろ。
「……これ、シナリオ誰だよ」
「部長ですけど」
「やっぱりか」
 ……なんでこう夢見がちなのか。
 そのくせ筋金入りのペシミストなんだから始末に負えない。
 デバッグでもなければ触ることすらしないだろう、甘ったるい文章に早々嫌気が差してはいたが、元々意味を考えずに文章だけ追って、誤字脱字を見つけるのは得意だ。内容の要約なんかもそれでやれるから、現国は勉強しなくても点数がそこそこ取れるタイプだった。ただし自分で文章を作るのは苦手中の苦手といえるので、作文や小論文なんかの成績は悪かったが。
 画面が止まっってしまったり、分岐でおかしなルートへ入っていく箇所を見つけては、幾度かプレイを繰り返しその原因を突き止める。そういったバグをいくつかテキストにまとめた。
「バグ、誰に送ればいい?」
「あ、とりあえず僕に」
 味気ない電子音と共に、メッセンジャーの共有ファイルが立ち上がる。その中にテキストを放り込むと、顔文字つきで「ありがとう」とレスが返ってきた。そこにいるんだから口で言え、口で。
 なんでこう……パソコンオタクっていうのはネットやってると口開かなくなってくるんだろうな。例えばあいつはネトゲを隣同士でやっていても、チャットで何もかも済まそうとしてくる。ペットボトルとって、とメッセージが飛んできて、頭をはたいてやったのは記憶に新しい。
「よし、とりあえず終了」
 副部長だという男の言葉に、部屋の中の空気がふっと弛緩した。
「繋ぎ合わせまで終わったから、とりあえずα版としては充分だ。人数分焼くから一旦持ち帰って、デバッグ作業に切り替えよう」
「それが長いんじゃないですかぁ」
「はは、でもどうにかなりそうだし」
 ちらりとこちらを見て、そいつが頭を下げる。
「助かったよ、ありがとう」
「いや、別に」
 奴の代わり、とするならば完全に役者不足だ。
 しかもあいつの代わりをする原因となったのは自分だから、こんな風に頭を下げられてしまうとどうにも身の置き所がなくなる気分で……それでも、そんな素振りは見せることなく端的に応じた。
「ところで会長」
「ん?」
「詳しそうだけど、何で? スクリプト打てるとか言われると思わなかった」
「勉強したからだが?」
「それはそうだろうけど、」
 苦笑しながら、尋ねてきたやつとは別の奴が会話に加わってくる。
「ゲーム作るの興味あるんならコンピ研に入ってくれればいいのに。掛け持ちも歓迎するよ」
「別に興味があるわけじゃない。ただ、」
 言葉にしかけて、はっとして口を閉ざす。
「ただ?」
「いや、何でもない」
 あいつに頼まれて、いつの間にか色々できるようになっていた。ただそれだけの話だが、別にこいつらに話すようなことじゃない。
「ふうん。まあいいけどさ。考えといてくれよ」
「そうだね、考えてみてくれるとありがたい。何せうちは人数が少ないから」
 どこか暢気な会話を交わして、その日はお開きとなった。スペアキーの在り処は承知していたから、施錠をかって出る。
「じゃあ、おつかれさん」
「おう」
「お疲れ様でした!」
 奴らを送り出して、あいつの気配が色濃い部屋の中、俺は一人溜息をついた。

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