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天香国色 中

173.jpg

A5 P52 500円 20091230発行 
生徒会長×コンピ研部長 R18
表紙:水戸幸村様
上巻の続きとなります 会長視点で身請け直後のおはなし
恋愛じゃないと言い張る会長と、微笑ましくふたりの関係を見守っている周囲
少しばかり断りにくい見合い話が主軸です

サンプル

「まったく……あなたという人は、」
 微苦笑を称えながら、宿の主人が苦言を呈す。
「僕はあの茶屋で人の売り買いが行われているかどうかを確かめてほしいとお願いしたのですよ。人を買って来てほしいとは一言も口にしていません」
「あれを買えたんだから証拠は掴めただろう。何が悪い」
「証のために買ってきたと仰るなら、その人をこちらへ引き渡していただくことになりますが?」 
 穏やかに微笑みながら告げられて、ぐっと言葉に詰まった。人畜無害な笑みを浮かべるこの男の舌鋒は、嫌な部分を柔らかく突いてくる。鬼の首を取ったように捲し立てられるほうが幾分かマシだ。そこそこ長い付き合いを鑑みれば、口で勝てるとは到底思えない。
 俺は、早々に白旗を揚げた。
「……勝手なことをしたのは認めよう」
 短い嘆息と共に吐き捨てれば、奴は笑みを深めながら楽しげに言葉を紡いだ。
「あなたが簡単に弱みを見せてくださるとは、珍しいこともあるものです。その人に感謝しなければいけないかな」
 ひとしきりくすくす笑った後、奴はふっと目を眇めた。
「まあ悪いようにはしませんよ、ご安心ください」
 安心しろと言われれば言われるほど不安を覚える相手を前に、それでも頷くしか出来ない。
 少なくともこの場においてこいつに逆らうことで、益になることはひとつもない事くらいは理解しているつもりだ。委ねる相手としては不本意だが、良い目を出すとこいつが口にするならそれは信用してやってもいい。
 短い付き合いではあるが、目の前の人物との付き合い方は既に身についていた。
 重要なことを口にしない場合は多いが、嘘になる言葉は吐かない性質だと知っている。それだけわかっていれば、充分と言えるだろう。
「ひとまずその人の身柄はこちらで預かりましょう。まだ住まいは決まっていないのでしょう? 変な場所に預けて探られるのは御免です。万が一にも僕の仕事に差し支えがあっては困りますし、お互いに痛くもない腹とは到底言えない身の上ですからね」
 面倒なことはあまり好きではないんですが。
 ちくりと続けられた厭味に、形ばかりの謝罪を告げる。
「すまん」
 我ながら謝辞の欠片も見えない憮然とした声音をどうかと思ったが、古泉は珍しく驚いた顔を見せ、次いでふわりと柔らかな笑みを浮かべた。いつもの貼り付けたような笑みとは少し種類が違い、心からの笑みに見えなくもない笑い方だ。
「あなたが素直に謝るなんて、本当に随分入れ込んでいるようですね。そういう方面には淡白とばかり思っていたので、少し意外です」
 言われてはじめて自分の行動の不可思議さに気付き、僅かばかりに心が乱れた。その動揺を表に出さないようにして、殊更素っ気無く告げる。
「……別に入れ込んでるわけじゃない。折角手に入れたものをすぐに手放すのは少しばかり惜しいってだけだ」
「なるほど、そうですか」
 奴はただひたすらにこにこしている。無性にむかっ腹の立つ笑い方に苛立つ心をどうにか堪えた。そうして自制しなければ、殴りかかってしまいそうに苛々してくる。
「何だ、その笑い方は」
「いいえ、何でもありません。これは地ですからお気になさらず」
 ふざけた物言いにいちいち腹を立てていては身体が幾つあっても足りない。言い募ったところで、飄々とかわされて余計苛立つのがオチだろう。その事は身をもって知っていたから、それ以上つつかずにおいた。
「では今回の報告は、後に書面でお願いします」
「わかった」
 話は終わったとばかりに踵を返せば、すぐに声がかかる。
「ああ、そうだ」
「……まだ何かあるのか?」
 無駄口に付き合わされる可能性もあるが、無視して立ち去るわけにもいかない。俺はこいつらに雇われている立場だ。
「あなたが買った方に興味が湧いてきました。少し惜しい程度なら僕に譲ってくれませんか? 言い値で買い取りましょう、いかがです?」
 振り返りかけた身体がぎくりと強張り、固めた拳の内側にじんわりと汗が沁みる。一瞬にして張り詰めた空気を切り崩したのは、──奴の大笑いだった。
「その顔、傑作ですよ」
 笑いすぎて眦に涙を溜めながら、合間にそんな台詞を挟む。日頃は齢より大分上に見える落ち着きを今は失ったその姿は、本来の年相応に見えた。
 呆然と立ち尽くす俺の前でひとしきり笑ってから、呼吸を落ち着けたそいつはいつも通りの穏やかな笑みを貼り付ける。
「あなたの想い人に何かしようとは思いません。僕はそれほど趣味が悪くありませんよ。まあ、あまりそういう物言いをしていると足元を掬われる事があるとだけ、覚えておいたほうがよろしいかと。人間素直が一番です」
 そう言って微笑んだそいつは、端整な顔立ちと相俟って厭味なほど優しげに見える。
「それでは、彼の処遇は先程お伝えしたように。良い場所が見付からないようなら、少々鄙びてはいますが調えれば使えそうな庵に心当たりがありますのでお声掛けください。あなたの恋がうまく行くことを祈っていますよ」
「想い人だとか恋だとか、そんなものじゃない」
「そうですか」
 さらりと涼しい顔で受け流し、こちらを見てにやにやと楽しそうに笑っている人物を残し、俺は会話を断ち切ってその場を去った。

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