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冬至

間に合いませんでしたw まあいいや
会部



「なんで痕つけるなって言ったときに限って目立つところにつけるんだ! 本当に最悪な奴だな、キミは!!」
「フン」
 憤然と睨みつけてみるも、彼がそんなことを気にするわけもなく流されて終わるのはいつものことで……とはいっても、やっぱり最悪だ。
「ああもう……」
「……ちょっと見せてみろ」
 ぐっと腕を掴まれて引き寄せられる。そのまま露わになった首筋を指でなぞられた。
「そんなでもないだろ」
「あるよ!」
 朱い痕が不規則に点々と散らばっていれば、それがどういうものであるか一目瞭然だ。しかも中には鬱血して青みがかかっているものまである。夏場だったとしても、虫刺されだと誤魔化すことすらできなさそうな惨状だった。
「まったくもう……」
 今年は諦めるしかないなあ、と嘆息したところで、後ろから声がかかった。
「で、何かあったのか?」
 悪びれた様子の全くない彼に憤慨したけれど、僕が何か言ったところで彼が気にするわけがないと知っている。そして、答えないという報復を実践したとしても、倍返しされるのがオチだろう。
「久しぶりに銭湯でも行こうかなと思ってたんだよ」
「風呂壊れてんのか?」
「ん、違うよ。今日冬至だからゆず湯だろ? どうせなら広い湯船に浸かりたかっただけ」
 でもまあその望みは断たれたわけだ。さすがにこんな状況で他人の視線を気にしないでいられるほど僕の顔の皮は厚くない。
「あとでゆず買ってきてウチで入るからいいよ。あーあ、楽しみだったんだけどなー、広いお風呂」
 いや、実際にはゆずの処理が後々面倒だから銭湯でいいやと思ってたんだけど、なんとなくむかついた気分だったからそうやって不貞腐れた。これで彼に何かダメージを与えられるかというとそれはないんだけど、別に平気だとここで言ってしまうのはなんだか癪だ。
「いきたかったなー、ああいうところは手足伸ばせて楽なんだよねー」
 我ながらわざとらしいセリフに、彼の低くて渋い声が重なる。
「わかった。黙れ」
「へ……?」
 振り返ると、彼が携帯電話をいじっていた。どうやらメールを打っているようだ。あんまり活用されているところを見たことがなかったから、珍しいものを見たと驚いた。
 それから数瞬置いて、軽快な着信音が鳴り響く。
 彼は来た返事を確認すると、こともなげにこう告げた。
「さっさと着替えろ」
「……は?」
「その格好でいいならそれでもいいが、寒いぞ」
「え、あの、何?」
「四の五の言わずにさっさとしろ」
 よくわからないけど、とりあえず彼の言葉に従っておくことにする。何故ならばものすごくイライラしているのが伝わってきたからだ。こういう場合、言うことを聞いておかないと後が怖いと知っている。
 それに、まあ、脱げって言われたわけじゃないし……。
 いや、その、そういうことが絶対にどうしても嫌だってわけじゃないんだけど──って、何の話だ。最近の僕は色々とおかしくなってしまっている。
「今日は冷えるからな、着込んでおけよ」
 彼はそう言い置くと自分も着替え始めた。どうやら僕はこれからどこかへ連れて行かれるらしい。しかもおそらくちょっとコンビニまでとかそういうレベルの話じゃないとみた。
 なんだか面倒なことが起こっている気がふつふつとしたけれど、仕方ないかと溜息をついた。どうせ彼に逆らえるわけがない。
 すっかり支度を整えた僕は、ちょっと迷って財布と携帯電話だけ持って出た。残金が心許ないけど、カードはあるし、まあどうにかなるだろう。段々彼の突飛な行動に慣れてきている自分がちょっとやだ。
「先に降りてる」
「うん、わかった」
 簡単に戸締りをチェックして僕も廊下に出た。ひやりとした空気が頬を撫でる。吐く息は白く、風は冷たい。できれば部屋の中に閉じこもっていたいところだけど、そういうわけにいかないので仕方なく階下へ降りた。
 エントランスを出ると、黒塗りのワゴンタクシーが止まっていて、彼がそれに乗って待っていた。
「さっさと乗れ」
 ……いや、まあ、いいんだけど……。
「どこに連れて行かれるんだい?」
「さあな」
 乗り込みながら尋ねてみたが、軽くスルーされた。
 僕が乗ると同時にタクシーは発進する。どうやらあらかじめ行き先を告げておいたみたいだ。タクシーはどんどん鄙びた人気のない場所へと入っていく。この辺りはちょっと外れると一気に山間に入るのが面白いところだ。
 段々道が悪くなっていくせいか、若干シートがガタガタと揺れる。いっそのことこの状況は楽しんじゃったほうがよさそうだな。
「そろそろ教えてくれてもいいんじゃないか? 僕達はどこへ向かってるんだい?」
「知らん」
 ……どうやら目的地に着くまでの間は、どうあっても彼は僕に説明するつもりがないらしい。諦めた僕は窓の外の風景に視線を移した。
 そういえば前に、神戸市内でもイノシシが出るって聞いたけど、あれ本当なのかな。眼前に広がる鬱蒼と茂った森を見ていると、本当かもしれないと思えてくる。少なくともモグラがいるのは確かなんだけど。一回だけ見たことがあるから。
 それにしてもこんな山の中に何があるんだろう。これは確かに歩きじゃきつすぎる。車なのも頷けるけど……。
「ん?」
 ちらりと、人工的な光が垣間見えた気がした。
 その光はどんどん強くなり、やがてその存在が明らかになる。風光明媚という言葉がしっくりきそうな山荘が見えてきた。
 タクシーは真っ直ぐその山荘を目指し、入り口付近で止まる。
「先に降りてろ」
 そう促されて従うと、彼は何やら車内で運転手さんと話をしていた。時間にして一分かそこらだろうか。それほど長話というわけではないけど、少しだけ気になった。
「待たせたな」
「いや、いいけど」
 そんなことよりも、なぜここに連れて来られたのか、頭が疑問符でいっぱいになっている。けれど彼はそんな僕の内心をまったく意に介さず、スタスタと入り口へ向かっていった。しんしんと冷え込む寒空の下、山荘の扉の前だけが煌々と照らされている。
「何してる。さっさと来い」
「あ、うん」
 呼ばれるがままに近付いていく。迎えに出てきた従業員は、何故か僕らを室内には通さず、外へと促した。
「こちらへどうぞ」
 和服の美人に微笑まれるのは目に嬉しいけど、目的地はここじゃなかったのか? 隣を歩く彼に、こそっと聞いてみる。
「どこにいくんだい?」
「ついていきゃわかるだろ」
 確かにそのとおりなんだけど……。
 昼間だったらさぞかし目を楽しませてくれただろう、小さい箱庭のような日本庭園を少しいった先に、こじんまりとした建物が見えた。アンティーク調の、女の子が好みそうな外観だ。火の気は見えない。
「それでは何かありましたら内線でお呼び出しください」
 そういって風雅なお姉さんは去っていってしまった。
 僕が戸惑っているうちに彼はさっさと中へ入っていく。室内にはやはり誰もいないようで、広くて綺麗に整えられているからこそ、まるでモデルルームのようで落ち着かない気がする。
 彼は上着を脱いで、リビングと思わしき場所のソファにそれを放った。
「後は好きに使え。柚子は冷蔵庫だと。俺はもう寝る」
 そう言って、彼はさっさと寝室らしき部屋に引っ込んでしまった。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
 慌てて追いかけると、不機嫌そうにちらりと視線を向けられた。
「なんだ」
「いや、なんだってそれはこっちのセリフっていうか、──ああもう、なんなんだよいったい! どうして僕はここに連れてこられたんだっ、説明くらいしたまえ!」
 わけがわからなさすぎて詰め寄ると、彼はこともなげにこう言った。
「宿を用意させた。手足がのばせりゃいいんだろ。思う存分ふやけてこい。俺は寝る」
「……は?」
 キミは何を言ってるんだ? やっぱりわけがわからない。
「……あのさ、まさかとは思うけど、それって僕が文句言ったから……じゃないよね?」
 恐る恐る尋ねてみれば、「他に何がある」と返された。開いた口が塞がらないとは、まさにこういう時使う言葉だろう。
「バカじゃないのか、キミは!」
「バカにバカといわれる筋合いはない」
「ありえないよ! 無駄遣いにもほどがあるだろっ」
「うるせえ」
 ギロリときつい視線で睨見据えられて、勢いがしぼんだ。言葉に詰まった僕の肩に手をかけた彼が、悪辣な笑みを浮かべる。
「俺が寝るのが気に食わないのか? なんなら一緒に入ってやろうか」
「ち、ちが……っ」
 かああっと顔が熱くなる。きっと僕の顔は真っ赤だ。
「そういうんじゃなくてっ、僕なんかのためにこういうことはしなくていいって……」
「なんかって言うな、バカ」
「……っ」
 言い募ろうとした口を彼の唇で塞がれて、それ以上僕は何も言えなくなった。
 ああもう、本当にキミってやつはありえない……。
 僕の内心の溜息を知ってか知らずか、彼が浮かべた笑みは意地が悪くて、とても魅力的なものだった。

 ああもう、ちくしょう、むかつく。

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