2ntブログ

プロフィール

あくあasえもと

Author:あくあasえもと
2/22生 東京在住
 
リンクは張るも剥がすもご自由に
ご一報いただけると嬉しいです!



倉庫(仮)

☆Pixiv☆
http://pixiv.me/emotokei(WJ、アニメ系)
http://pixiv.me/aquamilei(他、色々)

☆Twitter
emotokei
フォローお気軽に

☆skype
aquamilei
登録はお気軽に

☆mail
aquamilei@bf7.so-net.ne.jp


アンソロ・ゲストの執筆依頼は
とてもありがたいのですが
お受けできない場合があります
申し訳ありませんがご了承下さい

カテゴリー

ブログ内検索

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

disappear 2

会部 パラレル  教室へ入ると、見慣れたクラスメイトの中に明らかに異質な人物が混ざっている。ざわざわした室内の中、声を荒げているわけでもないのに一際目立つその姿を見咎めているものが僕以外にいないことに、こくりと喉が鳴った。
 ……これは、いったいどういうことだ。
 クラスの連中は女子も男子もみんなして、そいつに積極的に話しかけてこそいなかったが、すれ違えば挨拶をするし、突然増えていた席に彼が座っても何も感じていないようだ。朝のホームルーム前の忙しい時間に他のクラスの人間が目的もない様子でふらふらうろついているのに、何故誰も奇異に思わないのだろうか? 考えれば考えるほどわからなくなっていく。
 彼はクラスで一番後ろの窓際……つまり、僕の席の隣に腰をおろしていた。おそるおそる近付くと、馬鹿にしたような侮蔑的な視線を寄越してくる。
「何を及び腰になっているんだ?」
「う、うるさいなっ」
「……今日はなんだか様子がおかしいな。具合でも悪いのか? ならば保健室に連れて行くが」
 心配しているわけじゃなさそうな無機質な声が、面倒だと言わんばかりに耳朶を打つ。なまじ聞き惚れそうなほどの声だからこそ、そういう言い方に腹が立った。反射的に怒鳴りつけそうになって、衆目を浴びたくはないと思いなおし声を抑える。
「そんな必要はないよ。あんまり馴れ馴れしく話しかけないでくれっ」
その言葉を聞いて、彼は目を大きく見開き、次いで眉間に皺を寄せた。冷たく感じる容姿に、ほんの少し人間味が見えた気がする。
「本当にどうかしているようだな。まあいい、話は後で聞かせてもらおう。そろそろホームルームの時間だ」
 僕には話すことなんか何もないと告げようとしたけれど、それはチャイムにかき消された。
 鐘が鳴ると同時に担任の先生がガラリとドアを開けて入ってくる。教壇に立って軽く視線をめぐらせた教師は、やはり異変に気付いている様子はなく、空席がないことを確認するとすぐに教室から出て行った。授業がはじまるまでの短い間、ほっとしたような弛緩した空気が教室内に流れる。
「……なんでだ」
 思わず漏れた呟きは、誰の耳にも入ってはいないだろう。なんで誰もこの闖入者に気がついてくれないんだ。どう考えたっておかしいじゃないか。こんな奴、昨日までは確かにいなかった。僕の隣は空席で、机や椅子は置かれてなかったはずだ。
 考えようとすればするほど、キリキリと頭痛がひどくなっていく。吐き気までしてきた。そんな僕を、隣に座った人物が怪訝そうに見ている。
「こっちを見ないでくれ」
 ギロリと睨みつけて不機嫌さを押し隠そうともせずにそう告げると、嫌みったらしく溜息をついて寄越した。舞台俳優のような大仰な仕草は、普通だったら失笑ものだがその男には妙に似合っている。
 不意にそいつが寄って来て、僕の腕を掴んで無理矢理立ち上がらせた。
「な、何をするんだ!」
「ひどい顔色をしている。保健室へ連れて行くからおとなしくついてきたまえ」
 冷たく情の薄そうな視線に射竦められて、ぞくりと背筋が戦慄いた。思わず怯んだ僕を引き摺り、彼は近くにいたクラスメイトに、「彼を保健室に連れて行くと言っておいてくれ」と言付けて廊下へ出る。引っ張られて抵抗したら、掴まれた腕に痛みが走るほどきつく握られた。それでも振りほどこうと試みたが、逆に引き寄せられてひょいっと持ち上げられた。
「う、うわっ」
 細いほうとはいえ僕だって大の男だ。相当重いはずなのに、そいつは軽々と僕を抱え上げて保健室へと向かいはじめた。
「歩けないようだから運んでやろう」
「ふざけるな、離せよ! だいたいどうして僕が保健室へ行かなきゃいけないんだ!」
「決まっているだろう。そんな顔で授業を受けられても迷惑だからだ。文句があるなら体調管理ができていない自分自身に言いたまえ」
 口振りこそ諭すような雰囲気を保ってはいたが、ほとんど嘲笑に近い冷ややかな口調に腹が立つことこの上ない。……とはいえ、頭痛がひどいのは確かで、体調が悪いことは認めざるを得なかった。だからといって子供のような扱いをされる謂われはない。
「と、とにかく降ろしてくれ。保健室に行くにせよ、自分ひとりで行けるしキミが付き添う必要なんてない」
 そう告げたけれど、彼はあっさり僕の言葉を無視して担がれたまま運ばれていくこととなった。
 やがて保健室に辿り着くと同時に、ようやく彼は僕を降ろす。ガラリと引き戸を引くと、中は無人のようだ。
「あれ……?」
 いつもいるはずの養護教諭がいない。目に入ったメッセージボードを見ると、どうやら会議があって不在のようだった。来た生徒はノートにクラスと在籍番号、それに氏名を明記して、薬などが必要な場合は職員室へ出向くようにと書かれてある。薬をもらうほどでもないかな……今はだいぶ痛みが和らいでいる。
「キミは横になりたまえ。私が記載しておこう」
「え、いいよ。自分で書く」
 そう言ったけれど彼は僕の言葉なんか聞いちゃいない。やや右上がりの癖の強い字体で、僕の個人情報が記載されていく。在籍番号まで知ってるなんてどういうことだと思ったが、彼に関してはおかしなことばかりありすぎてどこから訪ねればいいのかさっぱりだ。
「呆けてないでさっさとベッドに入りたまえ。──ああ、」
 すっと僕の首筋に彼の長い指がかかった。
「上着は脱いだほうがよさそうだな」
 慣れた手つきで一番上のホックが外される。もう我慢できない、なんだこいつはっ!
「今朝からいったいなんなんだ! 初対面のくせに無礼すぎるだろう!!」
 そう叫んだ途端、ズキンと頭が痛くなった。さっきまでの非じゃない痛みに、思わずよろける。
「……く、」
 あ、やばい。倒れる。
 何故だか冷静な自分がそう告げていたけど、痛みに引き摺られるように膝が折れた。予測した痛みに身を竦めたけれど、痛みはいつまで経っても襲ってこない。
「平気か?」
「え、あ……」
 気付くと僕は、そのいけすかない男に抱えられていた。支えてくれたのだと気付いて、一気に顔が熱くなる。
「あ、ありがとう……」
 不承不承礼を言うと、ゆっくり手が離れて行った。探るような目つきでじっと見つめられて、一歩後ずさる。
「な、なんだよ」
「それはこちらのセリフだ」
 彼は眼鏡を外して、レンズを拭うと掛け戻した。蛍光灯に反射して、レンズがきらりと光る。
「初対面とはどういう意味だ。朝からどうも様子がおかしいが、私が何かしたとでもいうのかね?」
 その声には、さきほどまでより冷徹さが少なくなり、その分苛立ちのようなものが含まれているように感じた。
「キミが、何を言ってるのかわからない」
 そう返してベッドへ赴くと、何故だか彼がついてきた。
「キミは教室へ……」
 戻ってくれ。
 そう続けられるはずだった言葉は、声にできずに飲み込まれた。

<< disappear 3 | ホーム | disappear 1 >>


コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

 BLOG TOP