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会部 パラレル 「あー……駄目だ、眠い……」
 メッセンジャーで呼ばれてネットゲームにかまけていたら、うっかり明け方になっていた。テストが終わったから浮かれてたのもあるんだけど、うちの学校には試験休みがないんだからある程度のところで切り上げるべきだったなあ。毎回そうやって自分を戒めているはずなのに、ついつい熱中すると忘れてしまうのは僕の悪い癖だ。なんだかふらふらする身体をどうにか意識で支えながら、学校へと向かった。
 駅からの道で合流するブレザーの集団を見つけて、詰襟と比べて楽そうだよなあと思う。ネクタイだけど、校則が割と緩いみたいでしてない生徒もいたりするから余計に羨ましかった。とはいっても、あの長い長い坂を上がって毎日通う気にはとてもじゃないけどなれない。頑張るよなあ、としみじみ思った。僕は通いなれた道を歩きながら、とりあえず人にぶつかったりしないようにだけ気をつけようと心に誓う。
 歩いてるけど気分的には寝てるも同然な状態で、いきなり後ろから肩を叩かれた。
「キミ、大丈夫か?」
「え……?」

 知らない声に振り返ると、知らない人物がそこにいた。

「何を呆けているんだ、キミは。私の顔に何かついているのかね」
「え、あ……いや、何もついてはいないけど、」
 強いて言えば、精巧に作られた武者人形のように、絶妙な配置に置かれた顔のパーツがあるくらいか。怜悧といっていい顔立ちに浮かぶのは、どこか酷薄さを人に与える表情だ。せっかく顔はいいのに、とっつきやすさとか人懐こさとかそういうものとは無縁に見えてなんだかもったいない。ああ、さすがに失礼かな。
 うちの制服は前時代的な詰襟学ランなんだけど、僕はこれまでこんなに学ランを格好良く着こなしている人間を見たことがない。まるでどこかできちんと誂えた仕立物のように、それは彼の姿形を引き立てていた。長身痩躯だけれど、ひょろっとした印象はまったくない。日本人離れした体型はその顔立ちと相俟って、おそろしいほど目立っていた。
 特筆すべきは、低いけれど聞き取りやすくて耳触りのいい声だろう。洋画に出てくる渋くてかっこいい俳優の吹き替えがやれそうだ。柔らかさはまったくない硬質なその声が尊大に言い放つ舌鋒は鋭さを感じさせ、眼鏡のレンズ越しに垣間見える視線は強い。僕の後ろに立つ人物は、無理矢理にでも他人を従わせてしまいそうな空気を纏っていた。
「早く向かおう。遅刻したらキミも困るだろう」
「え、うわっ」
 ぐっと腕を引かれてたたらを踏んだ。いきなりなんだ、馴れ馴れしい奴だな。
「失礼な奴だな、離せよっ」
 慌てて振り払うと、相手は何故か虚を付かれたような顔をした。気取った仕草でずれてもいない眼鏡を押し上げると、朝日にきらりとレンズが光る。
「……まあいい、ならば私の手をわずらわせないようさっさと歩きたまえ」
 彼はどこまでも偉そうにそう言い置くと、話は終わったと言わんばかりに歩き出した。
 眠気? そんなもんとっくに吹っ飛んでる。
 彼の後をついて歩くような真似をしたくないのは山々だけれど、制服でわかるとおり、僕と彼が向かう場所が同じである以上それはできない相談だ。後ろをついて歩くのはごめんだと考えた僕は歩む速度を速めたが、彼は悠々と隣を歩いている。くそ、コンパスが違いすぎるのか。足まで長いなんて詐欺だっ。
 ──それにしても、ここまで目立つ人間だったら知っててもおかしくないのにな……。
 ちらりと横から整った容貌を見て、一回でも見たら忘れることが出来なさそうだと改めて確信した。ただ単に顔立ちだけじゃなくて、彼の持つ雰囲気が忘れられそうにない。
「あ、おはようございます」
「おはよう」
「おはようございます!」
「ああ」
 そして隣を歩いているうちに、この傍若無人でどこからみても取り付く島がなさそうな男が随分慕われている様子なのがわかった。正直言って、僕は困惑するしかない。何でこんな失礼な奴が、みんなに挨拶されてるんだ?
 頭に浮かんだ疑問符を、一瞬消してくれたのはそうやって挨拶してくるうちのひとりがかけた言葉によってだった。
「会長、おはようございます」
 ……かいちょう?
 ああ生徒会長のことかと思い当たる。そういう、役職っぽいものはイメージに合うな。人の上に立つ人間……っていうと大袈裟かもしれないけど、そんな感じがするのは確かだ。
 あれ? でも生徒会長ってもっとなんていうかガリ勉っぽくていかにも内申点狙いっぽい奴だったような……。
「いてっ」
 ぎりっと締め上げられるように頭が痛くなって、僕は思考を中断した。痛みはほんの一瞬かすめた後、すぐに消える。おそらく寝不足のせいだろう。僕の頭は今、考え事に向いていないみたいだ。
「どうかしたのか」
 言葉だけは心配そうな、けれどまったくそんな素振りの見えない言葉に頭を横に振る。
「なんでもない」
 そう答えたら、なんだか妙なデジャヴを感じた。

『どうかしたのか』
『なんでもない』

 そのやりとりに、覚えがある。前にもこんな会話を、彼と交わしたような気がする……。
 いや、気のせいだな。だって僕は彼に見覚えがないんだから、話をしてるわけがないんだ。
 なんとか自分を納得させて、僕は校門をくぐって下駄箱へ向かった。そこなら離れられると思ったのに、彼は僕と連れ立って歩いている。どうやら同学年だったらしい。年上かと、思ったんだけどな。まあこの年頃のひとつやふたつの年の差なんて、あってなきがごとしか。
「あれ?」
 彼が随分近い位置にある上履きを手にしていて、少しだけ訝しく思う。そこはうちのクラスの範囲の気がするんだけど……間違えたのかな? 指摘しようか迷ったけれど、何かあってたまたまおいといたのかもしれないと思って、声はかけずにおいた。

 今にして思えば、その選択は誤りだったかもしれない。

 廊下を渡る道すがら、担任とすれちがった。きちんと頭を下げて彼が挨拶する。
「おはようございます」
「あ、おはようございます」
彼につられて僕も頭を下げると、担任の先生はにこやかに「おはよう」と返事を返した。次いで告げられた言葉に、眉間に皺がよる。
 今、先生はなんていった?
 僕の聞き違いじゃなければ、「あなたたちは相変わらず仲がいいわね」と聞こえたんだけど……。
 何かと間違えてるのかな、なんだか今日はおかしなことばっかりだ。
 そろそろ教室だ。これでこの妙な奴……生徒会長とやらと離れられる。ほっと息をついて少し足を緩めると、彼がちらりとこちらを見た。しかし速度を緩めてこちらに合わせようとはしてこないことに安心する。別に彼だって僕に興味があるわけじゃないだろうし、そのままさっさと自分の教室へ行ってくれ。僕はどこか投げやりな気分でそう思った。

 だが、しかし。

 ──彼は、当然のように僕の教室に入っていったのだ。

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