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crime 8

会部




 マンションのエントランスを抜けて、駅の方へと歩き出す。しばらく歩いて人気がなくなってきたのを見計らってからタバコを吸おうと内ポケットを探ったら、ライターがなかった。
「……マジか」
 どうやらあいつの家に置いてきたらしい。仕方ない、コンビニかどこかで買うか……そう思ったが、割と気に入ってたもので諦めるには惜しかった。
 舌打ちして、携帯電話を取り出す。メールを打つのも面倒で、着信履歴に残った番号にそのままかけた。ワンコールしない内に相手が出たことにほんの少し驚く。
「悪い。今、平気か?」
『あ、ああ。どうしたんだい?』
「ライター忘れた。取りにいっていいか」
『え……あ、これか……届けようか?』
「いや、いい。今行く」
 それ以上の会話をする気になれず、切断ボタンを押して踵を返した。携帯電話を閉じるとパチンと妙に小気味よい音を立てて癇に障る。
 足早になってしまうのは早くタバコが吸いたいからで、それ以上の理由はない。──そう思いこんでおかないと、なんだかヤバイ気がした。
 吐く息が、白い。冷たい空気を意識すれば、身体が寒さに震えた。
 終電は既に諦めている。タクシーでも捕まえるか、それとも歩くか。どっちでもいい。
 いつもは気にならない眼鏡の感触がやけに気に障って、外してコートのポケットに入れた。ぞんざいな扱いをするなと古泉に怒られそうだが、ばれなきゃいいんだよ、ばれなきゃ。
 あいつのマンションまでは大した距離じゃない。さっきくぐった入り口を抜けて、おそらく俺が降りてから動いてなかったんだろうエレベータに乗り数字の3を押した。がたん、と音を立ててエレベータが動き出す。外界から閉ざされると、それだけで随分温かく感じるから不思議なものだ。気温はそれほど変わらないはずなんだが、風がないせいか?
 ほどなくして、がたん、と音を立てて止まったエレベータから降り立ち、真っ直ぐ奴の部屋へと向かった。……柄にもなく緊張しているのか、鼓動が早い。自嘲的な笑みが零れた。
 奴の部屋の前で少しだけ躊躇って、ドアフォンは押さずにノックした。パタパタと軽い足音が聞こえる。勢いよく開いたドアに面食らっている俺に、奴は目をそらしながらぽそぽそと口を開いた。
「これだろ?」
 差し出されたのは、件のジッポライターで、
「ああ、悪いな」
 受け取ろうと伸ばした手が、
「……っ!?」
 勝手に奴の手首を掴んでいた。
 ガシャン!
 するりと奴の手から転がり落ちたライターが派手な音を立てた。番が壊れてないといいんだが……そんな明後日な方向に思考が飛ぶ。
「は、離せっ! 何するんだ!!」
 見る見るうちに真っ赤になったあいつが、俺の手を振り払おうと必死でもがいている。今にも泣きそうな顔を見れば、ずくりと胸の内が疼いた。
 金さえ積めば手に入るものを、惜しいと思うわけがない。

 ここに戻って来てしまった理由は、ひとつだ。

 俺は、一度だけでいいからこいつに触れたかった。それが叶えられたら、一度だけじゃ足りなくなった。過剰なまでに欲しがって、与えられることに胡坐をかいて、貪れるだけ貪り尽くした。
 今更聞き分けのいいフリをして、誰を相手に体裁を取り繕うつもりだろうな?
 こいつが俺を好きだって言ったのは、友達としてだ。
 そんなことは百も承知で、それでも……諦めきれないんだからしょうがないだろ。
「っ、ん、んぅっ!」
 衝動のまま抱き寄せて口付ければ、当たり前のことだが抵抗が増した。無理矢理押さえつけて舌を滑り込ませる。いっそ舌を噛み切られても構わなかった。
「……ん、んぁ……」
 甘いとは言いがたい恨みがましい声は、それでも俺の耳朶を甘くくすぐる。それに煽られるように口内を舐りまわせば、必死で俺の胸を押し返そうとしていた腕から、徐々に力が抜けていった。……存外快感に弱い身体だと知ったのはいつだったか定かではない。
 完全に抵抗する力を奪ったと確信して、唇を離した。
 荒い息をついて泣きそうな顔をしたそいつは、掠れた声で呟いた。
「……なんで、こんなことするんだ」
 お前が好きだからだと言えば、また嘘だと断じられるのだろうか。
「僕を、からかって何が楽しいんだ……っ」
「からかってねーよ」
「嘘だっ」
 やっぱりな。どうしても嘘だってことにされるらしい。
 自嘲気味な溜息をつけば、それに呼応するようにそいつの目から涙が零れ落ちた。

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