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crime 7

会部




 呆然とした僕に向かって微かな苦笑を浮かべると、彼は「悪かった」と言って踵を返した。全てを拒絶するようにぴしりと伸びた背中に、すぅっと心が冷える。
「……っ」
 どこにも行くなと、口にしてしまいそうな言葉を必死で飲み込んだ。怖くてたまらない。彼は僕との繋がりを断ち切った。告げられた言葉が頭の中でぐるぐる反響する。こんな面倒な奴なんてもう嫌いになってしまったんだ。だって、もう友達にも戻れないと彼は言ったじゃないか。
 僕の気持ちは知られてしまった。彼が僕に感じてくれた好意は過去のものだ。
引き止めたりなんて、できるわけがない。
 ぱたん、と。
 ドアの閉まる音で、現実に引き戻された。
 さっきまで傍らにあったはずの存在は既になく、口元に微かに残る煙草の香りと抱き締められた感触だけが、彼がここにいたのは幻覚ではないと僕に教えた。
 ……次は、もうない。
 手の中に在る金属の冷たさが、それを如実に伝えていた。
 彼は何も悪くない。彼の気紛れからはじまった関係なんだから、彼の気紛れで終わることなんてわかってたはずだ。みっともなく泣いたりしなければ、友達に戻れたかもしれないのに……せめて告白なんてしなければ、時間が経てば元通りになれたかもしれないのに……伝えたら終わりだってわかってて、それでも自分の都合を押し通した。
 不確定で、不安定で、不誠実。
 約束も告白も何もなしに、なし崩しにはじまった関係なんだから、いずれは終わるとわかってた。

 わかってた、はずなのに。

「ごめ……っ」
 霞んだままの視界が情けない。じんじんと瞼が熱い。
「……っ、すき、だ……」
 嗚咽に混じる悲鳴のような声は、ひとりきりのこの空間で誰にも届くことはない。当たり前だ。彼は去ってしまった。もう戻ってこない。そもそもここは彼の居場所じゃない。
 僕は、自分の考えが甘かったことを思い知らされていた。
 通じ合えない痛みなんて、たいしたことなかった。打ち込まれた楔は、それ以上傷口が広がるのを堰き止めてたんだと今ならわかる。

 二度と彼に触れることが出来ない。

 そのほうが、ずっと痛くて、辛かった。
「……馬鹿だな……」
 なんで気付かなかったんだろう。
 手の中の金属質な冷たさが、震える身体を通して体の芯まで冷やしそうだ。握りこまれたまま固まった拳をゆっくり解けば、かちゃんと軽い音を立てて床に滑り落ちた。
「……っはぁ」
 少し落ち着こうと深く呼吸をして、ぐいっと目元を拭った。少しだけクリアになった視界の端に、携帯電話が映った。
 思わず伸ばしかけた手を慌てて引っ込めて、けれど思いなおしてまたそっと伸ばす。
 アドレス帳から彼の名前を呼び出して、そのまま消した。
 もとより、登録されてる番号や、業者避けに長ったらしいメールアドレスなんて覚えてるわけがない。これで、僕と彼を繋ぐものは全部切れた。それでいい。
 迷惑なんてかけたくない。ちっぽけな僕の、精一杯のプライドだった。
「……まあ、学校で会っちゃうけどさ」
 すぐに慣れる。きっと、すぐに……。
 大丈夫だ。僕はずっとひとりだったじゃないか。

 全てを終わらせたのは、僕のほうだ。

 自分にそう言い聞かせて、床に落ちた鍵に手を伸ばしかけた途端、携帯電話が震えた。びくっとして取り落としそうになったとき、うっかりどこかボタンを押していたらしい。
 受話器から流れたのは、聞き慣れた耳触りのいい低くて渋い声だった。

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