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無題

会部、幼馴染かも




「だからなんでお前は帰らないんだ」

 参考書を借りたいと家まで着いてきて、件の参考書に辞書までつけて貸してやったというのに、帰るどころか他人のベッドに我が物顔で寝転がってる物体に、心底呆れた声が出る。
「だってこの家広いしさあ」
 落ち着くんだよね。クイーンサイズいいよなあ、僕の部屋に置いたらこれだけで埋まっちゃうから無理だけど。
 そんな風に嘯きながら、奴はごろんと寝返りを打ってうつ伏せに転がった。さらりと流れた髪の隙間から、やけに白い首筋が覗く。こくりと喉が鳴ったのを気付かれたくなくて、殊更気が急いた。
「さっさと帰れ、遅くなるぞ」
 冷たく告げれば、うつ伏せの状態で視線だけちらりとこちらに向けられる。真っ直ぐ向けられた目線に射抜かれて、よこしまな考えが見透かされてそうな錯覚に陥った。
「……そんなに僕がいると迷惑なのかい?」
 ぽつりと呟かれた言葉には、甘えねだるようでいて切なげな響きを宿していて、思わず息を飲む。そんな俺を知ってか知らずか、奴はゆっくりと身体を起こした。シャツから伸びる骨ばった細い腕の白さが、藍色のシーツに映えて目に眩しい。
「だったら、入れなきゃいいじゃんか」
 不貞腐れたように続けられた声に、溜息が漏れる。その溜息に、奴は視線をそらした。不満げな様子がありありと見て取れる。
「帰らないつもりか?」
 家族が心配するだろ、とはこいつに対しては使えない。何故ならばこいつもまた俺と同じく一人暮らしだからだ。両親は海外だと言っていたと思う。固定電話はつけてないから、何かあれば携帯電話に連絡が来るのだとも言っていた。基本的に真面目だから信用されてるんだ、とはどの口が言ったものかと思った覚えがある。
「迷惑なら迷惑だって言えよ。そしたら帰ってやるさ」
 可愛くない言い草を──それでも、可愛いと思ってしまうんだから処置無しだ。
「……好きにしろ」
 夕飯はこいつの分も作る羽目になりそうだな。
 奴に背中を向けて嘆息した途端、ぽすっと軽い衝撃が背中に走った。とさりと足元に、枕が落ちる。
「おい、」
 さすがにムッとして、何をするんだと尋ねようと振り返って、俺は言葉に詰まった。
 微かに赤く染まった目元が、潤んでいるのは気のせいだろうか。
「……中途半端に、優しくするなっ」
 噛み付くようなセリフは語気が荒く、その雰囲気に飲まれてしまったのは不覚だったかもしれない。威嚇するために毛を逆立てた猫のような様相を、可愛いと思ってしまった辺り末期だ。
「どうすりゃ満足するんだ、お前は」
 溜息混じりに告げてみせれば、見る見るうちに顔が赤くなっていく。これ以上赤くなりようがなさそうなところまでいって、奴はいきなり立ち上がった。
「……帰る」
「待てよ」
 玄関に向かってすたすた歩き出した奴の腕を引っ掴むと、キッと睨みつけられた。こいつがそういう顔をするのはそう珍しいことでもない。怯みはしなかったが、内心掴んだ二の腕の細さにどぎまぎした。力をあと少し入れたら、ぽっきりと折れるんじゃないかと心配になる細さだ。
「なんだよ、邪魔なんだろ。帰るよ」
「別に、邪魔ってわけじゃない」
「……キミは、ずるい」
「何の話だ」
 いきなりずるいと断じられて、はいそうですかと言えるほど俺は丸くない。俯いたまま表情の見えないそいつは、ぽそぽそと言葉を紡いだ。
「嫌だったら、嫌だって言えばいいんだ。ちゃんと拒んでくれなきゃわからないよ」
「嫌だなんて言ってないだろ。お前のほうがよっぽどわかんねーよ。どうすりゃいいんだ」
「……わかんない」
 何だそりゃ。
 いい加減腹が立ってきたところで、なんだか様子がおかしいことに気付いた。ぽたりと、透明な雫が床に落ちる。
「キミの傍にいたい」
 小さな声は、真っ直ぐ俺の元に届けられた。思わずうろたえて掴んだ手を離せば、奴は俯いた顔を上げて、ほんの少し微笑んだ。
「ごめん。もう来ない」
 もう一度、ごめんと呟いて踵を返したそいつを慌てて引き止めた。肩を掴んだ手を引き寄せようとしたら、こちらに向くことを全身で拒否される。
「離せよっ」
「嫌だ」
「……っ!」
 やっぱこいつ細いな……。
 勢いに任せて後ろから抱き締めると、子供のように体温が高いことに気付く。他人の温もりは、久しぶりだった。
「な、なんで……」
 状況についてこれないのか狼狽が目に見える声色に、くすりと笑えば抱きしめた身体が微かに震えた。
「……俺の」
 傍にいればいい、そう続けようとしてなんだか違う気がしたから、別の言葉を口にした。

「傍にいろ」

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