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誕生日 2

竜原さんリクエスト
お誕生日おめでとうございます

会部、幼馴染





 ひとつの議題が終わるとすぐにペンを走らせる音が止むのはいつものことだ。有能な書記により、議事録はいつもミスひとつなく要点を抑えたものになっている。後で読み返したとき、話題や決定事項を追うのに苦労をした覚えがついぞない。時間をあまり無駄にしたくない性分の俺からすると、随分ありがたい話だ。
「では、今日はここまでとする」
 その言葉を合図に、室内の空気が少し和らいだ。次いで、議事録を書き記したノートをぱたんと閉じる音が静かに響く。
「もう遅いから気をつけて帰りたまえ」
 そう水を向けて、生徒会の連中をさりげなく部屋から追い出した。その目論見はほぼうまくいったが、柔らかそうなウェーブの髪をなびかせて、ふわりと書記が振り返る。
「会長はまだお帰りにならないんですか?」
「……そうだな、もう少し……いや、私も帰ろう」
 ここで残ると言うと、生真面目なこの女は自分も残ると言い出しかねない。そうなったら帰りに送る羽目になって、余計時間を取られるのは自明の理だ。
 普段だったらそれでも良かったが、今日は出来ればゆっくり考える時間を持ちたかった。なるべく早くと思ったが、家に帰るまでお預けだ。
「では参りましょう」
「ああ」
 他の連中の少し後ろを、書記と二人並んで歩く。書記は軽く顔を俯けて、淡々と歩みを進めていた。元よりこの女と話すことなど何もない。だからそのこと自体は特に問題なかった。気詰まりだとも思わない。おそらくこの女もそう感じているはずだ。
 やがて辿り着いた下駄箱で、上履きから靴に履き替え、俺たちは校門へと向かう。
 校門をくぐり、坂道を半ばも降りた頃に、不意に書記が口を開いた。
「何か気にかかることがあるみたいですね」
 ぽつりと呟いた言葉が、自分に向けられたものだと気付くまでに一瞬の間を要した。
「……どういう意味だね」
「言葉通りの意味ですわ、会長」
 そう言って彼女は控えめに微笑む。常に伏し目がちの瞳が、珍しく真っ直ぐ向けられた。その視線が意外に強く鋭いことに驚く。
「考えすぎると足元を掬われるものです。お気をつけて」
 謳うように抑揚をつけて言葉を紡ぐと、彼女はふわりと柔らかな笑顔を浮かべてくるりと背を向けた。
 いったい何なんだ……。
 今日は誰も彼もが俺に謎かけをする日だとでもいうのか。わけがわからん。
 舌打ちしかけて、辛うじて人前だということを思い出す。望んでしている演技だが、このときばかりは仮面をかなぐり捨てたくなった。
「……くそっ」
 小さく吐き捨てて帰路に着く。無性にタバコが吸いたいのは、イラついているせいだろう。それもこれも、廊下で交わしたあいつとのやりとりが発端に違いない。

『欲しいものがあるんだけど、』

 わざわざそう告げてきたくせに、それが何かを教えるどころか示唆することもしなかった。あいつが何を考えているのかわからない。あれほどわかりやすい奴は他にいないと思っていたのに、今となっては誰よりも理解し難い相手だ。
 深い溜息をひとつついて、携帯電話を取り出す。
 タイトルはいれずに、本文に「何が欲しい?」とだけ書いて、メールを送った。すぐにメールの着信が入る。「わからないならいらない」と書かれた素っ気無いメールに、内心頭を抱えた。

 考えれば考えるほどわからない。

 携帯を開いてメール画面を呼び出す、この動作もいったい何回目だろうか。
 だけど結局メールを送ることはせず、ぱちんと蓋を閉めた。意外に頑固なあいつのことだ。さっきと似たようなメールが返ってくることは想像に難くない。
 奴の好きな食いもんでも買っていくか。奴の思惑からは外れるだろうが、うまいものがあれば大幅に機嫌を損ねることはあるまい。割とそういうところは子供のように単純だと知っている。
 今から出れば、駅前で何かしら手に入るだろう。軽く飯を食ったとしても、日付が変わる前にはあいつのマンションに辿り着ける。あいつが早々に寝ているとは考えにくいし、プレゼントを渡すだけなら迷惑にはならないはずだ。
 だがさすがに誕生日ともなると少しは違うだろうか?
 とはいえ……。
「女、はいないよな……」
 何度かふらりと立ち寄ったことはあるが、追い返されることなく招き入れられるのが当たり前で、泊まりがけでも難色を示すことはない。それを考えれば、特定の相手がいることは考えにくかった。それに奴の性格を考えると、もし女と付き合いはじめたら、すぐに自慢げに話してくるだろう。そういう奴だ。ついでにいうと友達は多いほうだが、メールのやりとりはあまり頻繁ではないし、休日を一緒に過ごすような仲の相手ともなるとほとんどいないことも知っている。奴から一番近い位置にいるのは自分だと思うが、おそらくそれは認識として間違っていない。
むしろ、俺たちは近過ぎる。
 ふと、自嘲気味な笑みが浮かんだ。これだけ近くにいるくせに、あいつは俺の気持ちなど知りもしない。俺のほうだってあいつの欲しいものひとつわかってやれない。それがどうにも滑稽だった。
 幼馴染か……便利な言葉だ。
 友達と呼ぶには近すぎる。家族というには遠すぎる。
お互いを知られているが、あと一歩のところで踏み込めない。ぬるま湯のように、浸っているのが気持ちいいから手放せない。

 好きだと言ったら、あいつはいったいどんな顔をするんだろうか。

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