A5 P40 400円 20080816発行AQUA
幼馴染設定、生徒会長×コンピ研部長氏
表紙・口絵:コミさん
無理矢理の描写がありますので苦手な方はお気をつけください
書店:ガタケットSHOP
サンプル
八月半ばを過ぎた頃。
ただ立っているだけで、じっとりと汗が吹き出てくるような暑い夏の盛りに、かねてより気になっていた映画の公開に合わせて、僕は彼と待ち合わせをしていた。
「あっつ……」
なるべく日陰を選んだというのに、アスファルトに照り返された真夏の日差しは、人工物で篭った熱気を立ち上らせている。うだるような暑さとは、まさにこのことだ。
待ち合わせ、やめておけばよかったかなあ。
どうせお互いの家は近いんだから、別に僕が彼の家に迎えにいってもよかったんだけど(逆に彼がウチに来たって構わないだろうし)駅前までの道のりで寄れるわけじゃないから駅で待ち合わせってことになったんだよね。
……早く来ないかな。
割と彼は時間にきっちりしているほうで、早く来ることはあまりないけれど、遅刻をすることも滅多にない。
どちらかというと、僕が遅れて怒られることのほうが多い。ついついゆったりしちゃうんだよね。悪い癖だなあとは自分でも思うんだけど。
待ち合わせた時間は、十三時。現在時刻は十二時五十五分。いつもだったら、もう来てもおかしくない頃合だ。
ふと、来るであろう方向に目を走らせると、はたして彼がそこにいた。まるで僕の思考を汲み取ったかのようだ。
周りから頭ひとつ飛び出した長身が、人の波間にちらちらと垣間見える。ゆったりとした歩調はこの暑さを感じていないかのように余裕ありげで、そこだけぽっかり切り取られたみたいな異彩を放っている。
他人の視線が集中しても、それを全然気にしない様子に、昔からああいうところは変わらないなとくすくす笑った。
こちらに気がついた彼に手を軽くあげて見せると、にやりとその口元が綻ぶ。
「先に来てたか」
「うん」
声をかけられて、特にどちらともなく映画館へと歩みを向けた。長ったらしいやりとりを必要としない程度には、僕達の付き合いが長いっていうことだろう。幼馴染なんてこんなものさ。
「今日も暑いな」
「まったくだよ……失敗したなあと思ってた。こんなに暑いならウチで待ってればよかった」
「俺を歩かせる気かよ」
「何なら僕がそっち行ってもよかったけどさ」
気の抜けた他愛ないやりとりは楽しい。彼と話すのはものすごく楽だ。
お互いのことをよく知っているから、理解し合えない部分をつついたりしない。踏み込んでも踏み込まれても怖くない距離感は、とても心地いい。
多分十年経っても二十年経ってもこの関係は変わらないだろうと思えるそんなやりとりが、好きだ。
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