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Do you bet?

A5 P56 500円 20080629発行
涼宮ハルヒ♂×コンピ研部長♀ 18禁
表紙:荏永おうみさま
先天性転換もの
ハルヒにひっかきまわされる部長のお話

書店:K-BOOKS KAC

サンプルはこちら 029.jpg


文芸部室の前で、一呼吸。
こんこん、と軽くノックをすると、すぐに返事が返ってきた。
「どーぞ」
少しぶっきらぼうな声は、わたしの苦手な人物の声だった。びくびくしながらも意を決してドアを開けると、不遜な態度の下級生がパソコンを何やらかちかちいじっていた。
珍しく一人みたいだ。
目当ての人物が見当たらない。
「どうも……あの、長門くん、は?」
「有希ならもう帰ったよ」
「あ、そう……ありがとう。じゃあまた」
 残念だ。不具合がでちゃって、原因がわからないから彼ならって思ったんだけど……こんな時間だもんね。うちだってわたし以外はもうみんな帰っちゃったし。
調べて、また明日かなあ。
そう思って、踵を返そうとしたら、声をかけられた。
「ちょっと待って」
ほとんど条件反射みたいに、思わず立ち止まってしまう。
やっぱりこの声は、ずるいと思うんだ。
よく通る凛とした、他人に言うことを聞かせることに慣れている声。
振り返ると、女性らしいところはまるでないのに綺麗としか形容しようのない人物が、不機嫌そうにこちらをねめつけていた。
「なに?」
値踏みするような視線に居心地の悪さを感じる。
とても嫌な予感がしたんだ。
今となってはその予感に従って、さっさと帰ってしまえばよかったと思う。
けれど、そのときのわたしは彼に抗えず、その場に踏みとどまることしかできなかった。
「あんたさあ、自分の立場ってもんわかってる?」
「立場って……」
 語調が強いわけでもないのに、つい怯んでしまいそうになるのはなんでだろう。
 彼は芝居がかった仕草で立ち上がり、小気味良い音を立てて近づいてくる。わたしの目の前に立った彼は、人差し指をつきつけてきた。
人を指差さないでよ……。 
そう思いながらも、雰囲気に飲まれてそれを口にすることができない。
「あんたは言わば敗軍の将! 最近よく有希のこと連れて行くけど、うちの団員を顎で使っていいような立場じゃないってわかってる? ちょっとは遠慮するべきだと思うんだけど」
「う……」
 指摘されたのは、自分でも気になっていた部分だったので、わたしは言うべき言葉を失ってしまった。そんなわたしに構わず、彼は言葉を続ける。
「だいたいなんでそんなに頻繁に有希の手助けが要るんだよ」
「それ、は……発表が近いからそれに合わせて色々作業があって」
「ふーん」
 腕を組みながら、美貌を人の悪そうな笑みに歪め、人を小馬鹿にしたような態度をとるのは、何もこちらに対して明確な悪意があるわけじゃなくて彼のデフォルトだ。それがわかっているとはいっても、そういった態度は気持ちいいものじゃないのは確かなので、少しだけむっとする。それが気に食わなかったのか舌打ちされた。
舌打ちしたいのはこっちのほうだよ。まったくもう。
嫌みったらしく、彼が口を開く。
「有希は我がSOS団自慢の団員だからね。頼りたくなる気持ちがわからないわけじゃないけど、他人の手を借りなきゃ完成しないようなものを作る奴の気が知れない」
「わ、わたし達だって頑張ってる! もともと余裕あるスケジュール組んでたし。だけど……」
 そこで、わたしの言葉は途切れた。何を言ったってどうせ言い訳だって切り捨てられて終わるに決まってるからだ。自分で口にしていて言い訳じみて聞こえるんだから、尚更だろう。
 じわりと目頭の奥が熱くなった。
 こ、こんなことで泣くもんか!
「もう、わたし行くから。なるべくわたし達だけで頑張るようにする。それでいいよねっ、じゃ!」
 それで立ち去るつもりだったのに、ぐいっと肩を掴まれた。
「だけど、何?」
 意地悪く耳元で囁いてくる声に、体温が一気に上がる。なんでそんなに性格悪いのにそんなにいい声なんだよ、ありえない。
「あ、あの、」
「聞いてるんだから答えて」
 そう断じられて、言うつもりのなかったセリフを口にする羽目になった。
「……機材が、足りないんだよ。人手はあってもスペック低いマシンしか残ってないから、どうしても追いつかないんだ。だからスキルの高い長門くんに手伝ってもらえるとすごく助かる……でも、迷惑かけてるのは、わかってるから……」
「なるほど、ね」
 彼の目線が、ちらりと長机に向けられた。そこには半年ほど前に出た型のデスクトップが一台と、ノートパソコンが4台並べられていた。色々あって我がコンピ研から、この文芸部室を陣取っているSOS団へと貸与されているものだ。
 それが、わたし達が窮地に陥っている原因そのものと言っても過言ではない。
「じゃあ、パソコン返すか貸すかしたら、有希は連れていかないんだ?」
「返してくれるのっ!?」
「まさか」
 あっけらかんと笑いながら否定されて、がくんと落ち込んだ。あ、悪魔かこの男は……。まあ予想はしてたんだけどさ。
「うん、でも、そうだなあ」
 笑顔の質が、悪辣と表現してもよさそうなものに変わった。その笑顔を目にした途端、背筋がぞくりとした。
「賭けを、しようか」
 そう口にして笑った彼は、今まで見たことがないくらい晴れやかな表情をしている。
「賭け……?」
 いったいどういうつもりだろう。
「そう、この間無理だった条件にしよう。あの時はキョンに止められちゃったけど」
 非常に楽しそうに、彼は賭けの内容を口にした。
「こっちはノートパソコン4台を賭ける。そっちは、あんたを賭ければいい」
「はあ?」
 何を言ってるんだ。わけがわからない。
 けれど、わたしの目の前に立つ人間が涼宮ハルヒである以上、それはただの妄言や戯言ではなく、本気の発言だと認識せざるを得ない。
 それにしたって、あれだけあの子に怒られたのにまだ他人を景品呼ばわりするあたり、ものすごい神経をしているなあと呆れる。
でも、わたしを賭けるってどういう意味だろう? 朝比奈くんみたいに変な格好をさせられちゃうんだろうか、そんなの絶対御免被りたい。
 そうはいっても、提示された条件はあまりにも魅力的だった。
「……勝負の方法は?」
 おずおずと切り出すと、我が意を得たりとばかりに彼は目を細めた。
「別に何でもいいけど。ギャンブルらしくブラックジャックでもする? 簡単だし」
 ブラックジャック。それならわたしでも知っている。
 ハウスエッジを限りなく少なくできるトランプゲームだ。親がバーストしやすくなっているから、勝ちが拾いやすいんだったっけ?
「どうする?」
 よく通る耳触りのいい、名前の通りの涼やかな声が、問いかけてくる。
 デスクトップが戻ってこないのはもう仕方ないとして、ノートパソコンだけでも戻ってくれば作業はだいぶ捗るだろうな。
みんな、わたしを責めるようなことは絶対に言わないし態度にもださない。むしろわたしを慰めて、仕方なかったって言ってくれる。わたしのせいで余計大変な状況にしちゃったのに、すごく優しくて……。
誰からも責められないから、わたしは責任を取ることもできない。だからせめてできることくらいやらなきゃって思って、こうやって遅くまで残って作業していたわけなんだけど。
 賭けの対象が、たとえばコンピ研に関係するものだったら多分断っていたと思う。これ以上迷惑がかかったら顔向けができない。
 でも、わたしだけなら。
「負けたら何をすればいいの?」
「オレのいうこときいてくれればいいよ」
 いや、だからその内容を聞いてるんだけど……はあ、まあいいや。彼が聞いたことに対して、きちんと答えを示すはずがない。それは相手がわたしでなくても、たぶん変わらない不文律だ。
「まあ、あんたにできないことやらせるつもりはないよ」
 そう言って不遜に腕を組む姿は、悔しいけど一瞬見とれるくらい格好良かった。慌ててそんな思考を振り払って、わたしは口を開く。
「わかった、やる。そのかわりズルはなしだよ!」
「そのセリフはそっくりそのまま返すよ。なんかよく解んないけど、あんた達この間ズルしてたらしいし」
「う、」
 それを言われてしまうと非常に弱い。切羽詰っていたとはいえ、ひどいことをした自覚はあるんだ、本当だよ。
 だから負けたことで逆にすっきりした部分もあって、ごねたりせず素直にノートパソコンを渡したのはそのせいだ。彼が口にするまで再度賭けをするなんてことが浮かばなかったのもそういうことなんだと思う。まあ、そもそも賭けに使えるような手駒がなかったのもあるけれど。
「またズルされたらたまんないから、オレが親だよ」
「わかった」
「じゃあ、座って」
 勧められるがままパイプ椅子に腰掛けると「お茶でも飲む?」と尋ねられた。その屈託のない笑顔と、なんとも緊張感のないやりとりに、少しだけ気が抜ける。とてもじゃないけど、これから賭け事をする雰囲気じゃない。勝負好きだと聞いてはいたけれど、やたら楽しそうなその様子は、まるで無邪気な子供みたいだ。
 とりあえず飲み物はいらないと意思表示すると、彼はトランプを持ってわたしの前に座った。
 カードをシャッフルする指先は細くて長くて動きが綺麗だ。仕草の一つ一つが、嫌味なまでに整って見える。こんな時だというのに、ほんの少しどぎまぎする。
そういえば、こんな風に二人で話したのははじめてだなあと気がついて、なんだかどきどきしてきた。
意味がわからない。落ち着け、わたし。
 二枚ずつ、カードが配られる。
 わたしの手元に来たカードは、9と4……合計13。8までだったら大丈夫だけど、9以上だったらアウト。微妙なところだ。
 親の晒されている手札はJ……つまり10。ふせられている手札はわからない。
「ヒットする?」
 迷ったけれど、頷いた。
「オレはこのままで」
 追加したカードは、3だった。合わせると16。
ヒットしなかったってことは彼の手札が少なくとも17以上だってことだ。ヒットするしかない。
「……ヒット」
 どんどん分が悪くなっていくのは承知で、そう口にするしかなかった。ここで5以下が出る確率ってどれくらいなんだっけ? なんだかえらく低いような気がするんだけど、気のせい、じゃないよなあ。
 そして、当たり前のように悪い予感というものは当たるもので。
「……くっ」
 Qの絵札……10だ。合わせて26、バーストだった。
「ああもうっ!」
 持っていた手札をわたしが机に叩きつけるのに合わせて、優雅な手つきで彼は自分のカードを開いて見せた。
「なっ」
 そこにあったのは、ハートのA。つまり、彼の手札は配られていた時点でブラックジャックだったわけだ。そうなるとこちらがナチュラルでない以上、勝負はその時点でついていたということになる。
「性格わるすぎる……っ」
 睨み付けても、にやにやしている彼の表情は変わることはない。むしろ、褒められているかのように相好を崩した。
こういう時の彼は、元々綺麗なところに更に綺麗に笑うから、反応に困る。
 性格さえこうじゃなければ、格好いいのに。
 内心そんなことを考えながらも、口には出さない。好んでひどい目にあいたくはないからね。
「……まあ、勝負は勝負だからしかたないね。で、わたしは何をすればいいの?」
 いやなことは、さっさと済ませてしまうに限る。そう考えたわたしは、自分から話を切り出すことにした。どうせそんなに深く物事を考えているとは思えない。何か思いついたからわたしを賭けろと言ったに決まってる。
 その考えは、どうやら当たっていたみたいだ。
「ちょっとこっち来て」
 彼は尊大に椅子に浅く腰掛けて、机の上に長い足を投げ出している。
そのまま後ろに倒れてしまえ。
心の中だけで悪態をつきながら、ぐるりと机を回って彼の元へと赴いた。
「素直なのはあんたの美徳だね」
「うるさいな。何すればいいのか早く言ってよ」
 いつになく回りくどい様子に、苛々してくる。からかうだけならもう帰りたいんだけど。
 すっと、机から足を下ろして、彼は立ち上がった。
「座ってくれる?」
 少し躊躇したけれど、彼の言うとおり腰を下ろした。その途端、頭に違和感が生じる。
「うわっ、何するの!」
「髪ほどいただけ。ほら、おとなしく座って前向いて」
 振り返ると、きつく編みこんでいたふたつのおさげを結い上げていたゴムが、彼の手の中にあった。ふわふわと散らばった色素の薄い髪の毛が目の端に映る。
染めているわけではないけれど、そう見えてしまうような色合いだから、せめて少しでも色が濃く見えるようにと毎日苦心して編んでいるのに、なんてことしてくれるんだよ……。後で編みなおさないと……。
 深い溜息をついて、それでも言い募るようなことはせずに前へ向き直った。どうせ何を言ったって聞きっこないからね。なんていうか、即座にそういう判断を下してしまう辺り、わたしも毒されてきたなあと思う。
 さらさらと、彼の指先がわたしの髪を梳いた。不本意だけど、その動きが少しだけ心地良い。シャンプーのうまい美容師さんとか、そういう感じに近いって言えばわかりやすいかな。
 細くて長い彼の指は、加えて器用らしい。
 そこまで考えたところで、そういえば今わたしに触れているのは彼なんだ、と強く意識してしまい、顔が熱くなった。
 ぎゅう、とスカートを握り締めて、俯く。
 こ、この苦行はいったいいつまで続くんだ。
 髪の感触を楽しんででもいるかのように、丁寧に時間をかけて手櫛を通していた動きが止まり、ふたつに分けて片方をゆるくゴムで止められた。
「何してるの?」
「いいから」
 やっぱり教えてはもらえないらしい。諦めてされるがままになっておくことにする。幸いにも機嫌は悪くないようだし、髪の毛をいじるくらいならそうひどいことにはならないだろうし。
まさかいきなりバッサリ切られるとかはない、よね? ちょっとありえそうで怖いな。
「痛っ」
「ちょっとだけ我慢して」
 いきなり耳の後ろ辺りに髪の毛が集められ、まとめられたそれをきつめに引っ張られて、思わず声を上げた。ちょっとだけ我慢って、本当に何をするつもりなんだろう。
 びくびくしていると、きゅっとゴムで結ばれるような感触があった。彼の手が離れ、もう片方も同じように括られる。いわゆるツインテールというやつだ。今時こんな髪型小学生でもしていないというのに。
「こっち向いて」
 言われるがまま振り向くと、ふわっと髪がなびいた。編まずにまとめただけじゃ髪質が柔らかすぎるせいで、広がってしまう……細いけど量が多いから、それもよくないんだけど。
「ああ、やっぱり」
 何が。
「あんた、こっちのほうがかわいい」
 うわ。
 そんな言葉をにこやかに笑いながら言う彼は、その美貌と相俟って、なんというか、非常に、ずるい。こんな顔をされたら、文句を言うに言えない。それどころか、髪型を変えようかなと一瞬考えそうになった、一瞬だけど。
「からかうにもほどがあるよ」
「からかってるつもりはないけど?」
 にやりと意地悪く笑うその様子が、からかってないなどとはよく言えたものだ。なんて性格が悪いんだろう。
「これで終わり? だったら帰るけど」
 憮然としながら告げると、彼は楽しそうに目を細めた。
「まさか。これから、だよ」
 その言い方に不穏なものを感じたけれど、あえて無視して次の指示を待った。
「立って、オレに背中向けて」
 言う通りパイプ椅子から立ち上がると、微かに椅子がきしきしと傾いだ。年代ものだからなあ。
彼に背中を向けたら、不意に両肩を掴まれた。思わずびくっと肩を揺らしてしまったわたしを、責められる人なんていないと思う。
 さっきまでカードを操っていた、細くて長い指先で、体に触れられてると思うと、なんでかよくわからないけど叫びだしたい衝動に駆られる。
「あんたちっこいよねえ」
「うるさいよ」
 気にしていることを言われて、わたしは不機嫌さを隠すことができずにむくれた。どうせ小さいよ。
彼は一学年下だと言うのに、見上げないと話ができないくらいの長身だ。本当に、どこもかしこもずるいったらありゃしない。
 肩から腕、腕から背中、背中から脇。
 わたしの形を確かめるように、彼はいろんな部位に触れていた。触るというか、手を置く以上のことは何もされてなかったので、なんとなくされるがままになってるのが悪かったとは思う。
「ひゃっ、」
 後ろから前へ腕を回されて、左手で押さえ込まれた。見ようによってはぎゅっと抱きしめられているような格好だ。
「何を……!?」
「本当に小さいな」
「余計なお世話だ!」
 腕から逃れようともがいたけど、片手だっていうのにがっちり抑えられて離れられない。そんなに力を入れている様子もないのに、体格の差に歯噛みした。
「ひっ」
 彼の右手が、するりと腰骨の辺りを撫でて、思わず声が上がる。
「やっ、やだ、なにっ?」
「わかんない?」
 わかる。たぶん。だけどわかりたくない。
 明確な意思を持って、わたしの体を押さえつけたまま、スカートをたくし上げていく手の感触に、ぶわっと鳥肌が立った。
「や、やめ……っ」
 いくらなんでもこんなの承知できるわけがない!
 必死で引き剥がそうと試みると、耳元で涼やかな声が囁いた。
「賭けに乗ったでしょ。一応オレは逃げ道も残したよ?」
「こ、こんなことだっておもわなかったから……っ」
「そっか、じゃあやめてもいいけど」
 その言葉に、心底ほっとする。ほっとしたらじわりと涙がにじみそうになった。
「でもさあ」
 低くひそめられた声が、楽しそうに言葉を紡いでいく。
「校内で、2回も賭け事をしたなんてことがばれたら、どうなるんだろうね、コンピ研」
「!?」
「SOS団は、部活とかじゃないからお咎めはないだろうけど。備品を賭けるってことは、学校から回されてる予算の流用ってことだよねえ。しかも勝負したいって言い出したの、元々はそっちのほうだし?」
「お、脅す気?」
「脅してるつもりはないけど?」
 ふふっと含み笑いをしてみせる様子は、どこまでも楽しそうだ。絶望的な気分になってくる。どうしたらいいんだ。
「あんたを賭けた勝負に勝ったって、コンピ研の部員さん達に話したらどうなるんだろうね?」
 すっと血の気が引いた。部員たちが知ったら、面倒事を起こしたわたしを今度こそ突き放すかもしれない。そんなのはいやだ。慌ててわたしは反論した。
「そ、それを言うなら、キミだって彼女にこんなことしたって知られたらやばいだろ!」
「彼女?」
「キミの彼女だよっ」
「誰」
「誰って」
 いつも無気力な感じの、でも話してみると意外にしっかりしていて、美形集団の中だとちょっと目立たないけど結構整った顔立ちをしている女の子。涼宮ハルヒに振り回されているところをよくみかける。
「あの、キョンって呼ばれてる子、違うの?」
あれだけ一緒にいるんだから、付き合ってるに違いないと思い込んでいたんだけど。
「ああ、キョンのことか。あいつは仲間だよ。仲間と恋愛みたいなくだらないものをしようとは思わない」
 さらりとそんなことを口にする彼は、ひどいと思う。そりゃ、くだらないと言えばそうかもしれないけれど、それを大切にしている人間だっているんだ。
「じゃ、じゃあ古泉さんとか……」
「もっとない。あの子もオレにとっては大事な人だからね」
 だからってなんでわたしなの?
 大事な相手じゃなければ何をしたっていいって言うの? いや、まさしくそう言いたいんだろうけど。
 そんなの、ひどすぎる。せめて好きだからっていうんなら……。
 そこまで考えて、慌ててその考えを振り払った。好きだったら何だって言うんだ。どんな場合だって、こんなのひどいし許せないに決まってる!
 ふっと、わたしを戒めていた腕が解かれた。
 振り返ると、嫣然と微笑む彼の姿に圧倒される。
「いいよ。帰っても」
 あんたの好きにしていい。
そう言った彼は思わず見とれてしまうほど綺麗で、わたしは息を飲んで立ち尽くしてしまった。
「帰らないの?」
 すっと差し伸べられた手が、頬に当たる。血の気を失った顔に、その指先がひどく熱いと感じた。
 なんて、なんてひどい奴だ。
 ずっと堪えていた涙が、堰を切ったように溢れ出る。
 わたしは帰れない。彼には逆らえない。でも、こんなのひどすぎる。
 ゆっくり肩を押されて、長机の上に押し倒された。
「なんで泣くかな。そんなにいや?」
「……そんなの、決まってるじゃないかっ」
「でも、あんた、オレのこと好きだし」
 その言葉に、今度こそわたしは言うべき言葉を失った。呆然と瞠目したわたしに向かって、彼が無邪気に笑ってみせる。
 どくん、と、心臓が跳ねた。
 そんなの、誰にも言ったことがない。部員だって知らないはずなのに。
 こくりと、喉がなる。冷たい汗が、背をつたった。
「だから別にいいでしょ?」
 あっけらかんとそう口にしながら、晴れやかに笑う表情を見て、頭がぐらりとした。

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