A5 P24 300円 20071230発行VOICES
お付き合い前提の古泉×キョン 健全とは言いがたいけど全年齢
文章:あくあ 表紙・口絵:ちはやさん
10/28発行の無料配布本に加筆修正しました、甘めです
書店委託:ガタケットSHOP
サンプル
こんこんこん。
特徴的なノックの音に「入って平気だぞ」と声をかける。
「どうも」
ノックの主は俺の予想を裏切らず、見栄え以外はとりえのない超能力者だった。判で押したようにいつもと変わらない笑顔を浮かべている。
「おや、皆さんはまだいらしてないようですね。僕が最後かとばかり思っていましたよ」
「俺もさっき来たばかりだ」
ハルヒは終業の鐘と同時に席を立って、HRをさぼってどっかへ走ってったはずなんだがね。いったいどこへ消えたのやら、俺が来たときは既に文芸部室には三人分の鞄と服が置き去りになっていた。
「またなんか企んでなきゃいいんだがな」
「そうですか? 僕は彼女の企てが少し楽しみですよ。僕には到底思いつくこともできないことばかりでとても興味深い。それに、彼女が退屈を感じているよりは、何らかの楽しみを見出してくれるほうが僕としては助かります」
スーパーのチラシに載っている男性モデルのような安っぽい笑みを浮かべる古泉を見ながら溜息をついた。封印を誓った言葉が思わず出そうになったのを慌てて押しとどめる。今更だけどな。
まあ確かにハルヒが楽しそうなのは一部にかかる迷惑をのぞいては万々歳だろうさ。世は全てこともなし。迷惑をかけられるであろう朝比奈さんには申し訳ないが、そういうことにさせてもらおう。
「今回に限っていえば、彼女の目論見もわかる気がしますけれどね」
にこやかに弁舌をふるう超能力者の言葉に、気になる部分があった。
「ハルヒが何してるのかわかるって言うのか?」
「ええ、ただの推測ではありますが、あながち外れてはいないと思いますよ」
古泉は、ハルヒ達の制服をすっと指差した。いつも思うがその無駄に大きい動きは舞台でも見ているような気分になるな。やたら整った容姿のせいで絵になるといえば絵になるが、視界に入るときもいしうざい。改めたほうがいいんじゃないか。
「ヒントは、こちらに残された3人分の制服です。朝比奈さんだけではなく涼宮さん、そして長門さんも制服ではないと確定しています。これはとても珍しいことだと言えます。折りしも今宵は万聖節の前の夜……彼女の意図が、透けて見えてくる気がしませんか?」
正直言おう。お前が何を言いたいのか俺にはさっぱりわからん。なんだその万聖節とやらは。
「おや、あなたがご存じないとは意外です。オール・ハロウズと言えばおわかりいただけますか? 諸聖人の日ではいかがでしょう?」
そんなけったいなもんは知らん。俺は古泉の言葉に、首を横に振り続けた。
「キリスト教の祝いの一つですよ。全ての聖人と殉教者のために祈る記念日です」
それとハルヒの行動と、いったいどう関係してくるって言うんだ? まったくわけがわからん。まわりくどい言い方は好かん。さっさと本題に入れ。
「つまりは、」
「トリックオアトリート!」
ドアが派手な音を立てて開かれ、部室へ入るなり投げかけられたはしゃいだ声に思わずふりむく。そしてそこに広がる光景に、俺は唖然とした。
「と、とりっくおぁとりぃとー」
「……Trick or treat?」
「ほーら、さっさとお菓子をだすのよっ、キョン! 出さなかったらいたずらなんだからねっ」
それはもう、これ以上ないくらい満面の笑みを浮かべたハルヒを前に俺は固まっていた。いつの間にやら近くに来ていた古泉が、ひそひそと耳元で囁く。
「つまりは、こういうことです。今日はハロウィンなんですよ。いかにも涼宮さんの好みそうなイベントだとは思いませんか」
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