A5 P28 300円 20071007発行VOICES
へたれ古泉×猫キョン(18禁)
表紙・口絵:ちはやさん
ひたすらキョンのことが大好きな古泉と
そんな古泉に色々ほだされちゃうキョン
書店委託終了
サンプル
終業の鐘と共に席を立つ。急ぎつつ、周囲からは余裕のある動きに見えるよう調節するのも、そろそろ慣れてきた。
今日は新しいゲームを購入している。彼にルールを教えるための予習は済ませてきた。説明の後、一回くらいはプレイできるといいのだけれど……いつの間にか作り笑いではない笑みを浮かべている自分に気がついて、苦笑した。
退屈でつまらないとふてくされては、厄介な事態を引き起こす神の監視……周囲に同情された役回りがまさかここまで楽しくなってしまうとは、縁というものは不思議だ、と思う。
今では、ただの記号でしかなかった彼らの名前は、彼らを表すものとなっている。涼宮ハルヒ、朝比奈みくる、長門有希、そして「彼」、全員そろってこそのSOS団、といったところだろうか。こんな感情を持ってしまったことは、機関には隠し通す必要があるんだろうな、ましてや彼へ抱いてしまった想いは……若干自虐的な考えに耽っていた時を狙ったように、あの感覚がやってきた。
ぎくり、として足を止める。携帯電話が低く唸った。
「……ゲームはお預け、ということでしょうね」
携帯電話を取り出すと、思った通り液晶画面に機関からのメールが届いていた。折り返し落ち合う先を指定して、メールを送る。
新品のゲームの入った紙袋が、やけに重たくなったように感じる。せっかくここまできたのだから、ゲームはとりあえず部室へ置いていくことにしよう。運がよければ、彼とも言葉を交わせるかもしれない……そこまで考えて、自分がどれだけ彼に囚われているかを改めて実感し、そっと息を吐いた。
部室の前で、内心の気持ちを覆い隠すべくいつものように笑顔を作る。
こんこんこん。
ノックをして返事を待つ。
「入って平気だぞ」
彼の声に促されて扉をあけると、定位置で読書をしている長門さんと、机に突っ伏して寝る体勢を整えている彼だけがいた。
「涼宮さんと朝比奈さんは、まだ来ていらっしゃらないのですか」
「ああ、ハルヒ達なら買い物に行った。今日はもう戻らないから好きにしろだとよ」
きっとまた朝比奈さんの衣装だろうな、まったくいつもいつも騒がしいことこの上ないねあいつは、とぼやく彼に、
「そうですか。これからバイトが入りましたので、ちょうどよかったです。荷物だけ置かせてください」
「バイトって……」
彼が体を起こしながら、こちらに問い詰めるような目線を向けてくる。
「お察しの通り、閉鎖空間です。小規模なものですのでご安心ください」
「別にお前の心配なんぞしていない。ただ、そこまで機嫌が悪いようには見えなかったから不思議に思っただけだ」
不機嫌そうな言葉が、その言葉通りでないことは僕でなくてもわかるはずだ。鋭いくせに不器用な優しさしか見せられない彼が、いつだって愛おしい。かわいいと思う。そんなことをいったら怒られてしまうだろうけれど。
「そうですか。ではお先に失礼します」
「ちょっと待て。それ何だ?」
「はい? ああ、ゲームです。面白そうなので買ってみました。来週詳しくご説明します」
呼び出しがないといいのですが、と続けたらあからさまに顔を顰められた。何かを言いかけて、逡巡したように口を閉じ、机に突っ伏す。いつも、歯切れがいいとは言わないが、歯に衣着せぬ物言いの彼に似つかわしくない表情に少しいぶかしんだが、そろそろ時間がない。
「それではまた来週」
軽く片手をあげて立ち去る間際、視界の端に机に伏したまま彼が手を上げるのが見えて、思わず微笑んだ。
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