AQUA

会部




　パソコン画面に向けていた体を彼へと向ける。
「さっきの、謝ってくれ」
「ん？」
　勝手に雑誌を漁っていた彼の手が止まった。そんなに親しいわけではない他人の家にいるとは思えない傍若無人さに呆れつつ、僕は言葉を続けた。
「僕は気分を害してるんだ。暇つぶして行くんなら家主の機嫌くらいとってくれ」
「……」
「とりあえず手始めに謝れ」
　そう告げると、非常に珍しいことに彼は唖然とした顔つきで僕を凝視していた。
なんだ、ちゃんと年相応の顔もできるんじゃないか。
そう思ったのも束の間、彼はすぐに、いつも見せてくる皮肉げな笑みを浮かべ嘯いた。
「……本当に退屈させない奴だな、お前」
「なにがいいたいっ」
「悪かった」
　噛みついた瞬間、あっさり僕の要求は通ってしまい、求めていた言葉が彼の口から出てきた。僕は言葉にぐっと詰まって、それ以上言い募ることはできなかった。
「……わかってくれたなら、いいけどさ」
　そう言い置いて、モニターに向き直る。
　ブラウザを立ち上げてまずはメールの送受信……来るメールのほとんどが迷惑メールなので、さくさく削除していく。長く使っているメアドは気楽でいいんだけど、こればっかりは困りものだ。一応フィルタリングもいれてるけど、あんまりきかないしすぐに新しいアドレスで来るし、知り合いでフリーメール使ってる奴もいるし。
　とりあえずすぐに返事が必要そうなメールはきていないことを確認してブラウザを閉じる。今日は特に約束もないし、とりあえず落としておくか……。
　電源を落とそうとした時に、ふと背後に人の気配を感じた。
「どうかし……っ」
　ぐいっと乱暴に顎を掴まれ、強引に顔を上げさせられた。文句を言う間もなく口を塞がれる。
「ん……ぐッ」
　油断していたせいであっさり舌の侵入を許してしまい、僕はじたばたと見苦しく暴れた。
「──ぅ」
　無理な体勢での口付けのせいで、息がとても苦しい。酸素を求めて口を開けると更に深いところまで暴かれる。
　最悪だ、こいつ本当に最悪だ。
　仏心なんて出すんじゃなかった。ちくしょう。
　口に出せない分思う存分心の中で毒づいて、ぎゅっと目を瞑る。ぬるい雫が頬を伝った。