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わくらば3

神夜飛鳥さんから奪い取ったリクエスト 会部 ラスト




 ありえない、ありえない、絶対こんなのありえないっ。なんなんだいったい、どうして僕がこんな目に合わなきゃいけないんだよっ。
 生徒会室から転がるように逃げ出して、明かりの消えた廊下を一目散に下駄箱まで走った。下駄箱についたとたんどっと疲れてその場にへたりこむ。なんで生徒会室からの短い距離なのにこんな風になるかな……体力ないなあ僕。
 あんまり見た目よくないのはわかってるけど、どうせこんな時間で誰も来ないし、ちょっと落ち着くまで座っとこう。
 大きく息を吸って吐いて、何度かそうやって深呼吸を繰り返して、息切れはとっくにおさまってることにふと気がついた。うわあ、とげんなりする。顔の熱さは増すばかりなのに、どういうことなのかなこれは。
 頭を抱えてがっくりとうなだれて、抱えた手がさっき触られたとこだって思い出してさらに顔が熱くなった。絶対に今、顔が赤い。
「なんだっていうんだよ……」
 からかうにしたって、タチが悪すぎると思うんだけど……べ、別にはじめてだったのにとかそんな女の子みたいなこというつもりはないけど、けどさっ。
 はじめてだったんだよなあ……。
 改めて考えたらどーんと落ち込んできた。
 なんなんだよ、あれ。二重人格? 話し方も雰囲気もまるで違って、すごいびっくりした。しかもあんな、あんな、
「……冗談じゃない」
 やたらと整った顔がものすごく近くで、イタズラに成功した子供みたいに笑ってたのが浮かんで、それが離れなくて、顔が熱くて、どうしたらいいかわかんなくなってきた。
 ふう、と溜息をついたのとだいたい同時に、雨がぱらぱらとぱらついてきた。すぐにザーザー降りに変わる。
「うわ……」
 早く帰ればよかった。後悔先に立たずとは正にこのことだ。慌てて鞄を漁ってみたけど、いつもなら入ってるはずの折り畳み傘が入ってない。そういえば先週雨が降ったとき使って、そのまま玄関に置きっぱなしだった。なんてついてないんだ。
 なんだかもうその場を動く気力もなくなって、少ししたらやまないかなーと淡い期待をしてみる。にわか雨だといいんだけど、甘いかな。甘いよな。
 濡れて帰るのいやだなあ、まあ仕方ないかと立ち上がったところで、不意に後ろから声がかけられた。
「誰かいるのか? もう部活の活動時間もすぎている、そろそろ帰りたまえ」
「うわっ」
 思わずびくっとして振り返ると、暗い廊下に人影が見えた。ちょうど玄関の明かりが逆光となって背の高いシルエットだけを映し出す。
 ゆっくりとこちらに向かって歩いてくる姿をみてとりあえず立ち上がったものの、どうしていいかわからない。帰ろうにもまだ肌寒い中雨に打たれる覚悟もない。
 細長い眼鏡が、蛍光灯の光を反射した。
「なんだ、おまえか」
 立ち止まり、偉そうに腕を組みなおす姿はやっぱりどう見ても傲岸不遜を絵に描いたみたいだ。だからなんでそんなに偉そうなんだよっ。
「そんなところに突っ立ってどうしたんだ? ああ、俺を待ってたのか?」
「そんなことあるわけないよっ」
 ありえない、本当にありえない。言うにことかいてなんてこというんだこの男は!
「冗談はさておいて、だ」
 ゆったりとした足取りで近づいてきて思わず身構えたけど、普通に通り過ぎられて拍子抜けした。うわ、これじゃ僕が自意識過剰みたいじゃないか。隣を通ったとき、ちらりと視線を向けてきて、人をくった笑い方をしてたのがものすごく気に障った。
 さっさと靴に履き変えて、傘立てのほうへ向かうかに見えた彼が、不意に足を止めてこちらを向いた。
「おい、帰らないのか」
「……傘が、ないんだよ。もう少し小降りになったら帰るさ」
「間抜けだな」
「うるさいなっ、言われなくてもわかってるよ!」
 家を出る前ちゃんと天気予報は見てきたし、降水確率高かったのも確認したし、でも忘れてきちゃったもんはしょうがないじゃないか。ああもうっ、人のことからかってないでさっさと帰ればいいんだ。
 僕の心の声が聞こえたわけでもないだろうけど、すぐに彼は玄関をくぐった。傘を開くぱんっという音が、静かな中やたらと響く。立ち去る背中にさっさと行け、と念を送ってると、2、3歩歩いたところで彼が振り返った。
「何してるんだ」
「何って……」
 さっき説明したじゃないか、と続ける前に、
「さっさと来い、送るから。帰るぞ」
「えええええっ? いいよそんなのっ」
 送るとかありえない。そんな女の子じゃあるまいし。だいたい気まずすぎる。キミ、まさか自分のしたこと忘れたんじゃないだろうねっ?
「こんな時間に学校居残ってる奴がいると、生徒会の管理不行き届きになるんだよ。いいから来い」
 有無を言わさぬ口調に気圧されて、仕方なく靴に履き替えて、一緒に玄関を出た。
 なんでこんなことになってるんだろう……男と相合傘とか、本当にありえないよ。それはまあいいとしても、考えてみたらうち駅と逆方向なんだよね。
「……僕んち駅の方じゃないから、コンビニ寄らせてもらえるかな。傘買って帰る」
 坂に差し掛かったところでとりあえずそう伝えると、ちらっと目線だけ動かしてこっちを見て、
「おまえんちってどこらへんなんだよ」
「へ? 坂下からちょっといったとこだけど」
「送るって言ったろ」 
「えええええっ、いいよ!」
「いいんだな」
「そういう意味じゃないよ!」 
 うう、日本語ってなんでこんなに難しいんだ。そもそも僕はああ言えばこう言うような口の達者な人間は苦手なんだよっ。
「うるせえな。俺が送るっつってんだから黙って送られろ」
 頭ごなしに畳み掛けられてちょっとだけ怯んだ所に腕を掴まれて引き寄せられた。
「うわっ」
「そっち肩濡れてる。ちゃんと入れよバカかお前」 
「言葉で言ってくれ、言葉でっ」 
 さっきのアレがあるから、何かされるのかと思ったじゃないか……びっくりした……。
「口で言うより早いだろ」
 なんて性格だ。怒るより先に呆れるね。まるで涼宮さんみたいだ。
 はあ、と溜息をついて、彼の言葉通り濡れないように傘に入る。いいよ、わかったよ、送られるよ。それで満足するんなら。
「おまえんちどっちだ?」
「そこ右にいったとこ」
 歩いてるとたまにそこかしこが触れて体が強張る。自意識過剰だってわかってるけど、しかたないじゃないか。あんなことされたんだから。
 そうこうしてるうちに、うちが見えてきた。  
「えっと、そこのマンション」
「ずいぶん近いんだな。羨ましいこった」
「それだけで選んだからね」
 マンションの入り口について、傘が畳まれる。上がってもらったほうがいいのかなあと思ったけどなんて切り出せばいいのかもわかんないし来てほしいわけでもないしどうしようかと悩みつつ、とりあえず感謝の言葉を口にしてみることにする。
「あー、ありがとう。助かったよ」
「別に……なあ」
 すっと顔を近付けられて思わず後ろに下がる。
「なんだよっ」
 くくっと笑いながら見つめられてなんでかぞくっとした。鷹の前の雀の気分だ。
「取って食いやしねえ。そうびくびくすんな。俺に気があるように見えるぞ」
「そんなわけないだろ!」
 何を言い出すんだ、本当にありえない! そう続けられなかったのは、すっと眼鏡を外す動作に気を取られたからだ。はじめて見た素顔は眼鏡をかけてるときに比べてずっと人間味がある感じで目を引かれた。
「うわっ」
急に腕を掴まれて強く引き寄せられた。ぽすんと肩口に倒れこむ。傘が落ちて床に転がる音がエントランスに響いた。
耳元で殊更に低く甘い声が囁く。
「そうか。それは残念だ」
 急激に頭に血が上っていく。顔が熱い。
手を振り払って後ずさるとすぐに壁にぶつかった。満足げな笑顔を浮かべる会長をいい加減にしろ! という思いをこめて睨み付けてみたけどちっとも効いてない。余裕すぎる表情がすごく気に食わない。
 眼鏡のレンズを袖でぬぐって再び掛け、傘を拾い上げると、雰囲気が一変した。
「コンピ研、一つ言い忘れていたことがある」
 初めて会ったときと同じ『生徒会長』がそこにいた。
「今期予算を割くことはできないが、一定以上の活動内容が認められればPTAから補助が出る。活用したまえ」
 そう言い置いて彼は止むどころか激しさを増す雨の中に去っていった。
 うっかり見送ってしまったことにはたと気がついて、すごく恥ずかしい気分に襲われる。何してるんだ僕。
 壁を背にしてずるずるその場に座りこむ。
「ちくしょう……」
 つぶやいた言葉に、思った以上に実感がこめられてるのに思い至って、盛大に溜息をついた。







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