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ほわいとでー

会部 コレの続きっぽい?




 三月十四日。
 世間でホワイトデーと称される今日の日付を迎えてから、そいつの様子がなんだかおかしい。そわそわして落ち着かないかと思うと、急に溜息をついたり、こちらの様子をちらちらと伺っている。
 期待と、不安と、諦観と、憧憬。そんなものが入り混じった視線に絡め取られてしまいそうだ。
「どうした?」
 視線を合わせて声をかけると、一瞬ぽかんとした顔をしてからハッとしたような顔になった。
「な、なんでもないっ」
 俺から視線をそらし俯いた顔は、見る見るうちに耳まで真っ赤に染まっていく。とてもじゃないがなんでもないようには見えない。
 仕方ねえな。
 ちらりと冷蔵庫の片隅に眠っているものが頭に掠めたが、すぐに打ち消した。
「おい」
「……なんだい?」
 僅かに警戒心を覗かせつつ素直に応じるあたりがかわいい。衝動のままに腕を掴んで引き寄せた。
「ちょっと来い」
「うわあっ!」
「うるさい、わめくな」
 緩く抱き締めるだけで強張る身体に、まだ慣れないのかと舌打ちする。
 身体だけならとっくに、俺のものなくせに。
 本当に面倒だな、と思う。
 こいつに対して、──そして、自分自身にも。
「顔上げろ」
 そう促して、やわらかく薄い唇に口付ける。ほんの少しだけ肩が揺れたが、抵抗が返ってくることは無かった。
 ふわふわと触り心地のよい髪に指を滑らせれば、戸惑ったようにぎこちなく縋ってくる姿に、じわりと胸の奥が熱くなる。
 どうしようもなくこいつにハマってる自分に気付いて、苦笑した。
 頭を撫でる手はいつしか愛撫のそれへと変化したが、嫌がるそぶりは見えない。むしろ、迎え入れた先で、覚束ないながらも舌先を絡ませてくる。
 俺達は暗黙の了解に流されながら、互いの身体に溺れていった。



 ぐったりとベッドの上で身体を投げ出しているそいつに苦笑する。
 いつになく甘えたようにねだる姿を見せられて、少し無理をさせてしまった自覚はあった。
「悪い」
「……別に」
 声がくぐもっているのは、うつ伏せているからだ。
 顔が見たいと思ったが、無理やりひっくり返す気にもなれず、うつ伏せの態勢であらわになった首筋に口付けて軽く吸い上げた。
「……っ」
 微かに喘ぐ声と、ほんのりついた跡に、独占欲はおさまるどころか増すばかりだ。柄でもないなと、苦笑が深まる。
 まあいい。
 台所に赴き、冷蔵庫から目当ての物を取り出した。
 それをベッドへ放り投げると、ちょうど奴の手元あたりにぶつかって転がる。
「……ん?」
 訝しげに奴が身体を起こそうとして、動きが止まった。
 視界の端にそれが目にはいったらしい。
「なんだい、これ?」
「やる」
「……ああ、そう……って、えええっ?」
「ホワイトデーだろ、今日」
「え、あ……」
「くれただろ」
 いかにもコンビニで買いました、という感じの安っぽいチョコレートを、一日遅れで。
 てっきり物好きな女から貰ったとばかり思ってたが、俺のだとわかってきっちり礼も言ったし残さず食った。甘いものは苦手だから、チョコはそれしか口にしてない。
「そう、だけど……だって、まさか、用意してるとか思わなかったし……」
 徐々に尻すぼみになっていく語調は戸惑いがちに揺れていて、ああもうこいつは、と嘆息した。
「いらなきゃ捨てるから返せ」
「いる!」
「それならウダウダ言うんじゃねえ」
「うう……」
 そう言って断じると、あからさまに困惑気味の、釈然としない表情を浮かべたまま、そいつは箱を手に取った。いわゆる本命相手とされるだろうそこそこ名の知れた店の名前が入っていることに、はたして気付くのかどうか。
 奴は、その箱と俺の顔とを何度も見比べて、やがてかぁあっと顔を紅くして俯いた。
「あ、ありがとう」
 おずおずと告げられた言葉は、予想していたものと同じだったのに、表情が予想外すぎた。
「すごくうれし……って、わあっ! な、何、」
「……好きだ」
 たった一言告げただけで、ぴたりと抵抗が止まる。
 酷使された身体は、まだ快感のあとが色濃く残っているのか、さっきよりも顕著な反応を示し始めた。
 ──結局再び最後までして、「ありえない」とか「信じられない」とか散々悪態をつかれる結果になったが、俺は煙草を手にして聞き流していた。その態度が余計に気に入らないのか、バカはどんどんヒートアップしていく。だがそんなのは俺の知ったこっちゃない。
 
 幸せで幸せで仕方ないような顔を好きな奴にされて、煽られない男がいるか、バカが。

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