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ばれんたいんあふたー

会部 部長が割とぐるぐるしてる




 二月十五日。

 時計の針が0時を回りだいぶ経つ。当然日付は変わってしまっている。そんな事実を確認して、僕は小さく溜息をついた。
 結局渡せなかったなぁ……。
 まったく、いったい何のために来たのか。
 ご飯を食べさせてもらって、お風呂を借りて、僕に合わせてゲームとかしてくれて、……至れり尽くせりとはまさにこのことだ。彼の優しさを当たり前のように享受しながら、僕はまた溜息をつく。
 本当に、何のためにここまで来たんだって感じだよなあ。
 でもさあ、だって……。
 わかってたんだ。彼がモテるのは、充分わかってたんだけど、居間のテーブルに積み上げられた、豪華な包装をされたチョコレートらしきものの山を見てしまったら、とてもじゃないけどコンビニで買った安物のチョコレートなんか渡す事が出来なかった。
 コンビニで買ったといっても、ちゃんとバレンタイン用にラッピングはされている。だけどそれは尚更、高価そうなそれらとの差を助長するようで、気後れした。いっそ板チョコとかそういうのだったら、さらっとネタっぽく渡せてしまえたのかもしれない。
 結局持ってきたチョコレートは僕の鞄の中で、ひっそりとその身を潜めている。
「はぁ……」
 せっかく買ったんだけどな。まあいいや、帰ったら自分で食べよう。
 そう一人ごちると、やや不機嫌そうな彼の声が降ってきた。
「さっきから鬱陶しいな。何かあるんなら言えよ」
「え、あ……な、何もないよ」
「何もない顔じゃねーよ、それ」
 じろりと僕を見据える視線に、ひくりと喉が鳴る。思わず鞄を抱えてしまったのを見咎められた。
「……ちょっとそれ見せろ」
「えっ」
 鞄を引き寄せようとする彼に、必死で抗う。
「やっ、嫌だ! やめろよっ、何するんだ!!」
 こ、こんな……見せられないよ。
 あんな見るからに安物のチョコなんか、何で買ってしまったんだろう。彼に笑われるのが怖くて、僕は必死で抵抗した。
 それが気に食わなかったらしい。
「そういうつもりなら、こっちにも考えがある」
 ひんやりと冷え切った声に、ぞくりと背筋が震える。
 ぐっと手首を掴んだ手には、容赦のよの字もなかった。
「いたっ」
 思わず鞄を取り落とすと、素早く彼が拾い上げる。
「素直に渡してりゃ痛い思いはせずに済んだんだからな」
 お前が悪いのだと非難するような響きを言外に篭めて、彼が嘯く。あんまりといえばあんまりな言い草にかぁっと顔が熱くなった。
「で、隠してたのはこれか?」
 彼が無造作にプレゼントの箱を取りだし、机に叩きつけた。
「……貰ったのか?」
 彼の問い掛けに答えず顔をそらすと、ぐっと後頭部を掴まれた。髪を引っ張られて、自然顎が上がる。
「なっ」
「聞いてんだろ、答えろよ」
 無理矢理顔を上げさせられて、真っ直ぐ視線を捕らえられる。さっきまでの優しさをかなぐり捨てた態度に、じんわり視界が揺らいだ。
「関係、ないだろ」
「……フン、」
 彼が冷笑を浮かべる。とてもイヤな感じの笑い方だ。
「どこのどいつに貰ったか知らんが、こんなの明らかに義理だろ、義理。喜ぶ奴の気が知れねえな」
 あからさまな嘲弄に、怒りとも羞恥ともつかない感情で身体が熱くなる。
「わ、悪かったなっ!」
 彼の手を振り払って、鞄を引っ掴む。
「あ、おい」
「帰るっ!」
 何か言いかけた彼の言葉を遮って、僕は玄関へと向かった。ドアを開けようとした瞬間、腕を掴まれる。掴まれた部分から伝わる熱に、何故か泣きたくなる。
「ちょっと待てよ、これどうすんだよっ」
 珍しく慌てた声に、すぅっと心が冷えていった。
「……それは、キミに上げようと思ってたやつだから」
 驚いた様子を見せる彼の手を振り払う。
「キミの言うとおり、義理だから。捨ててくれていいよ」
 それだけ言って、部屋を出た。
 パタン、と扉が閉まれば、ひやりと冷たい夜気が頬を撫ぜる。
 さっさと帰ろうって思ったのに、足が凍りついたように動かない。
 生温い滴が、頬を伝っていった。
 ──義理、なんかじゃ……ない。
 そう思われても仕方ないけど、でも、だって、ちゃんとしたチョコレートなんか買いにいけるわけないじゃないか。僕にとって最大限出来る限りが、コンビニでチョコを買うことだったんだよっ。
 それをあんな風に笑われたのは、やっぱりショックだった。
 だけどそうなる予感はしてたんだ。だから渡さなかったのに、彼は全て暴いて僕を笑いものにした。
 悔しいやら、情けないやら、なんだかもうよくわからない感情が身体を駆け巡る。
 目元を拭った瞬間、キィ……とドアが傾いだ音を立てた。
「おい、」
「……なんだよ」
「中入れ」
「帰るって言ってるだろ」
「もう終電ないだろ」
「……タクシーで帰る」
「バカか」
 彼が僕の手を引く。その途端、動かなかったはずの足は、彼に引き寄せられるがまま一歩ずつ踏み出していた。
 何故か抗うことが出来ず、彼に促されるまま部屋の中へ舞い戻る。彼が冷笑を浮かべているかもしれないと思えば、表情を伺うことはできず僕はただ俯くばかりだ。
「顔上げろよ」
「嫌だ」
 彼が小さく嘆息する。呆れてしまったんだろうか。それでもいい、もうどうだっていい。
 半ば自暴自棄に近いやさぐれた感情を抱いていた僕を、彼は不意をつくようにして抱きしめた。
「なっ!」
「悪い」
 まるで独り言のように耳に吹き込まれた囁きに、びくっと肩が揺れる。
「あれ、お前から俺に、ってことでいいんだよな?」
「……そうだよ」
「すげー嬉しい」
 そう告げた声音があまりに優しくて、心臓が跳ねる。思わず心にもない言葉を口走った。
「ぎ、義理だって言ってるじゃないか!」
 言ってしまった後に、しまったと思ったけれど、彼は頓着した様子もなく柔らかな声で続ける。
「ああ、それでも嬉しい。ありがとうな」
 それと、嫉妬してすまなかった……と。

 耳に吹き込まれてしまえば、それ以上意地を張ったり出来なかった。

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