A5 P36 400円 20100321発行
古泉一樹×朝比奈みくる 全年齢
Red biscuitsのななみかずこさまと合同
古みくで女装古泉というアレな設定です
割と二人ともみくる主導な感じですが
あくまでも古みくと言い張ってみます
SOS団の活動を終え、珍しく一人欠けている状態で僕たちは帰路についていた。
一人欠けているといっても特に何かあったわけじゃない。
あったといえばあったと言えるが……長門さんがコンピ研に行っているという、ただそれだけの理由だ。充分日常の範囲に収まる出来事といえるだろう。
そんな日常の中、涼宮さんはすこぶる上機嫌だ。
しばらくは閉鎖空間に時間を取られることはないと思う。
今日は久しぶりに、彼女の突拍子もない発想に振り回されてしまった。
彼曰く「涼宮ハルヒのイエスマン」を拝命した身としては勿論抗えるはずもなく、振り回されるがまま彼女の思うように行動するしかできない。
今現在、僕の隣を歩いている彼は必死で抗った結果、僕以上にひどい目に合わされていた。何も言わなくて良かった、と胸を撫で下ろしたことは、僕たちの友情に日々が入るのを防止するため、自分の中で留めておくことにしようと考えている。
「どうせだったらメイク道具なんかも用意したかったわね、迂闊だわ」
……そうならなくてよかった……心の底からそう感じたのは僕だけではなかったらしい。隣から、深い溜息が聞こえてきた。どこか諦めきっているような響きを含んだそれに僕も苦笑すると、彼がちらりと目線を向けてくる。同病相哀れむ視線に、肩を竦めて見せた。
後姿からでもウキウキしていることが見て取れるほど涼宮さんの機嫌が良くて、それ自体は機関の人間としても僕個人としても、SOS団の副団長としてもとても喜ばしいのだけれど……その対価が、若干いつもより大きかったように思う。
そんな風に考えているうちに、分かれ道に辿り着いた。
「また明日ね!」
「じゃあな」
「さようならぁ」
「それでは、また」
僕たちは、思い思いの声を掛け合って別れを告げ、それぞれ帰路に着く。ひとり少ないことを除けば、いつもの日常そのままの風景だけれど、今日はほんの少しだけ違っている部分があった。
僕の少し前を歩く朝比奈さんが、何故か不機嫌極まりない。
そもそも、前を歩いていること自体がおかしい。いつもなら皆と別れた後は、僕の隣を歩くはずだからだ。
「朝比奈さん」
「……なんですか」
声が、僅かばかりに硬い。
常ならばふわふわと砂糖菓子のように、舌先に乗せただけでほろりと溶け崩れてしまいそうな甘さを称えているはずの声音が、平素とはまるで違っていた。
「どうかしましたか?」
「どうもしてません」
打てば響くように返ってくる言葉は、どこか刺々しさを含んでいて、僕は肩を竦めた。
どうやら本格的におかんむりのようだ。
彼女の不機嫌の理由はいったい何だろうか?
怒っているというには、雰囲気がそれとなく柔らかいのも気になるところだ。どちらかというと、怒っているというよりも戸惑っているとか困惑しているなどという、そういった言葉のほうがより近い気がしていた。
もし先程の行いが原因であるなら、僕や彼も被害者なのだけれど。
あれは流石に参ったなあ、と苦笑する。
……嫌な予感は、していたのだ。
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