A5 P36 400円 20091005発行
Red Biscuitsのななみかずこさまとの合同誌(漫画・小説)です
古泉×キョン♀、お付き合いしているふたり、キョンのみ後天性転換
サンプル
まず最初に言っておくが、どうしてこんなことになったのか、俺にはわからないし、わかりたくもない。だから俺に何かを聞かれても答えたくはない。そもそも答える材料を持っていないのだから答えられないと言ったほうがおそらく正しいのだろう。
さらさらした柔らかい髪が頬をくすぐる感触に、どうしようもないほど違和感を覚える。自分の身体だというのにぷよぷよとどこもかしこも柔らかい手触りをしていることが居心地悪くてかなわん。
俺は、どうやら女になってしまったらしい。
事の発端が何だったのか、凡人たる俺には知る由もない。
俺が目を覚ましたとき、なんとなく違和感があった。微かに身体を起こせば、さらりと腕に柔らかい質感の髪の毛が流れる。びくっと体が竦んだ。
きっとこれは夢だ。
寝なおそうとしてみたが、それがただの現実逃避だということには気付いている。
いくらなんでもここまでリアルな夢をみることはありえない。明晰夢を意識して見たところで、ここまで現実感に充ち満ちているとは到底思えないね。触れるもの全てが鮮明で、微かに室内に漂う情事の残り香まで感じ取れるくらいだ。
断じて認めたくはなかったが、自分を騙すにも限界というものがある。そろそろ認めるしかないだろう。
これはどうやら夢じゃないらしいということを。
「どうしたもんかね」
ぽつりと呟けば、鈴が鳴るような可愛らしい声が、俺の言おうとした台詞を紡いだ。どういうカラクリかはまるでわからんが、とりあえずはと身体を起こしてみる。
自分自身を省みて、我知らず溜息が漏れる。ぶかぶかのシャツに埋もれた細身の身体はアンバランスすぎて、このまま外へ出たとしたらかなり目立ちそうだ。ハルヒ辺りなら気にしなさそうだが。
まあ、自宅じゃないだけマシだったかもしれないな。
慰めにもならない慰めを思い浮かべ、ほうっと息をついて隣を見やる。
そこでは、副団長が眠っていた。
SOS団の活動で一緒の部屋になったり、古泉の家へ泊まるようになってから、同じ部屋で寝起きする機会は幾度かあったが、ぐっすり眠っている古泉をはじめて見たように思う。俺より後に寝て、俺より先に起き、寝癖ひとつない状態で完璧な笑顔を浮かべている……そんな印象しかなかったから、少し驚いた。
考えてみるまでもなく、別に古泉はサイボーグってわけじゃないんだから、眠りもするだろう。それは至極当然のことだ。だが、当たり前のことなのになんとなく納得し難いのは、少しずつ取り払われていく垣根に、踏み込んでしまっていいものかどうか自分でも判断しかねているからだろう。
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