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十五夜ですね

というわけで、会部






 用事もないのに他人の家へやってきて、台所を占拠し何やらはじめた幼馴染に声をかける。
「さっきから何してるんだ?」
「お団子ー」
 団子がどうしたって?
 さすがに気になってきたので、座していたソファを後にし台所を覗くと、白っぽい塊と格闘している小動物の姿が見えた。いや、実際には俺に比べれば小柄とはいえ標準程度の高校生男子なので、小動物というには無理があるような気がしないでもないのだが、なんとなく立ち居振る舞いがそれっぽい。こう……リスやねずみのようなげっ歯類が、立ち上がってわしゃわしゃ何かしている様子にそっくりだ。
「後で食べようと思って」
 でも結構手間がかかるもんなんだね。
 そんな風に嘯きながら、せっせと手は休めずに動かしている。忙しない動きを見ていたらなんだか和んできた。生徒会選挙も近付き、色々やることが増えはじめたせいか、最近あまりゆっくり休んでいない弊害だ。こんなもん見て和むなんてどうかしてる。
 いや、まあ……どうかしてるのは今更だが。
「夜食にそんな手間かけなくてもいいだろ」
 そう声をかけると、肩越しにちらりとこちらを見やって(この仕草がまた何とも言えず小動物に見える)何やらぶつぶつ言っている。何かあるならはっきり言えといつも言ってるだろうが。
「どうした」
 水を向けてやると、ようやくこちらをきちんと見たあいつが、不服そうに呟く。
「だってさ、どうせだったらちゃんとしたいじゃないか」
「何を?」
「……え?」
 俺の反した言葉に、奴は弾かれたように振り返った。ただでさえ大きな目が、そのまま転げ出るんじゃないかと思うくらい大きく見開かれている。紅茶色をした色素の薄い虹彩が、信じられないものを見たようにまっすぐこちらを見つめていた。
「なんだよ、その顔は」
「あー……そっか、忘れてたか」
 ほんのり、奴の頬に赤みが差す。目元を赤く染めた姿は、元々白い肌と相俟って、小動物的な印象を打ち消すくらい色艶めいて見えた。
「そうか、ごめん。家に居てくれたし、てっきりキミも……ええと、なんでもない。片付ける」
 突然色々広げだした時と同じように、突然片付けはじめるそいつに面くらう。
「おい?」
 俺は何も作業をやめろとまで言った覚えはないのだが、そう聞こえたのだろうか?
 やんわり問い掛ければ、奴はどこか気恥ずかしそうに力なく首を横に振った。
「違うんだ、……その、ごめん」
 だから何がだ。
 溜息をつけば思いの他大げさになってしまう。そいつの肩がぴくりと震えて、困ったように顔がそらされた。それでも無言の圧力に耐えかねたか、ぽつぽつと喋りだす。
「去年の十五夜、雨だったろう? 僕が楽しみだったって言ったら、キミが来年見ればいいって言ってくれて、なんとなく一緒に見られるような気になってたんだ。その……ごめん」
 言っている間に恥ずかしくなってきたのか、どんどん顔が赤くなり、果ては耳まで真っ赤になってしまった。その様子が面白すぎて、にやにやと口の端に笑みが浮かぶ。
 しょうがない奴だ。
「一年も前のことなんかそうそう覚えてられないに決まってるだろ」
「言われてみればそうなんだけどね」
 キミ、忙しいしなあ……そんな風にひとりごちるそいつに向かって手を伸ばす。
「うわあっ!?」
 そのままさらりとした髪をぐしゃぐしゃにかき回してやると、悲鳴じみた声が上がった。それが面白くてくくっと笑えば、憤然とこちらを睨みつける視線と目が合う。真っ赤な顔でそんな風にされても、誘われてるのかと思うくらいだ。
 いっそそう思い込んでしまえればいいのに、と少しだけ笑みに自嘲が加わる。
「さっさと作れ。食ってやるから」
 傲然と告げれば、そんな言葉にさえ奴は嬉しそうに破顔する。
「うん、わかった!」
 塊に向き直り、再び白い塊との格闘をはじめた幼馴染を背にして、俺は窓に近寄った。カーテンを少し開けて空を仰ぎ見れば、忌々しいほど綺麗な弧を描いた白く輝く月が静かな空に彩を添えている。冷たい夜の中で、ぽっかりとそこだけが暖かく見えた。
 それはこの無機質で生活臭の少ない部屋にいるときのあいつみたいだ……そんな風に考えて苦笑する。感傷に浸るような、こんな時間はらしくない。だが、こんな自分もまた自分なのだと知っていた。
 胸ポケットから煙草を取り出し、火をつける。いつの間にかすっかりと馴染んだ煙にまかれながら、ぼんやりと月を眺める。そこに重なる面影を、侵しがたいからこそ手に入れたいとも強く思った。
「あとはふかすだけだからもうちょっと待ってくれるかい?」
「……ああ」
 他愛ないやりとりに混ざる、俺の本音にあいつが気付くフシはない。それでいい。気安い友人同士、他の誰よりも近いけれど決してずかずか踏み荒らさない。ちょうどいい距離だ。
 だが、ふとした瞬間に好意を示されるたび、それがもっと特別な何かではないかと縋りそうになる。もちろんそんなことがあるわけないと、俺は知っていた。

 抱えている欲を全て叩きつけたら、あいつは逃げるんだろうか。

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