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crime 9

会部


 がくがくと震える膝が今にも崩れ落ちそうで、それが情けなくて涙が出てきた。悔しくて仕方ない。
 嫌いになれればいいんだ。そうすれば楽になれるのに。
彼の取り澄ました顔を殴ってやりたいなんて思ったのははじめてのことだ。実行に移しはしなかったけれど、そうできたら少しはすっきりするんだろうか。
 僕を抱き締める腕の力は強くて、思わず身体を預けてしまいたくなったけれど、そうするわけにはいかなかった。
「──悪い」
 戸惑いを含んだような掠れた声が耳に吹き込まれる。抱き締める腕の力が強まって、痛いほど僕を締め付けた。
「……っ」
 なけなしの矜持が、ぐずぐずに溶かされてしまう。耐え切れずぎゅっと目を瞑れば、かえって鮮明に彼の体温を感じて、──温かくて、心地よくて、もう僕にはどうしようもなかった。
 握り締めた拳を解いて、そっと彼の背中に回す。縋ってしまえば……もう、虚勢を張ることもできない。
「どうすれば、」
 頬を熱いものが伝っている。泣きたくなんかないんだけどな、と、今更なことが頭を掠めた。
「キミは僕をもう一度好きになってくれるのかな」
 ぽつりと漏れた言葉の厚かましさに顔から火が出そうだったけど、一度口にしたら止まらなくなった。
「いや、好きになってくれなくたっていい。今まで通りで構わないんだ。キミが誰かと付き合うまででいいし、代わりでいいから、だから……っ」
 何を言ってるんだろう、僕は。
「今だけでいいから、」
 黙れよ、彼が困ってるじゃないか。
「僕の傍に、いてはもらえないだろうか……」

 数瞬の間を置いて、彼が詰めていた息を吐いた。

急に我に返り恥ずかしくなって彼に縋った手を離したら、きつく抱き竦められる。その腕の力強さに驚いて息を飲んだ。
これは同情なんだろうか。それでもいい、触れてもらえていることが嬉しい。
「ふざけんな、バカ……」
 呟いたセリフに反してその語調は柔らかく、戸惑ったようにも聞こえた。それが不思議で顔を上げると、目元を微かに赤らめた彼の視線とぶつかった。
「本当にバカだ、お前……」
 くしゃりと前髪に絡んだ指先が、若干乱暴に僕を撫ぜる。そのひとつひとつの動きが、なんていうかこう、優しすぎて……すごくどきどきしてきた。
ああ、顔が熱い。
「だいたいそれは、こっちのセリフだ」
 不機嫌そうな、嬉しそうな、辛そうな、楽しそうな、よくわからない顔で彼が嘯く。ゆっくり端整な顔が近付いてきて、思い切り狼狽えた僕はぎゅっと目を瞑った。
 軽く押し当てられた唇が、すぐに離れる。
「な、」
「黙れ、バカ」
 囁きがあまりにも優しくて、ぎゅう、と胸の痛みがひどくなる。僕と同じくらい、彼の鼓動が速く聞こえた。
「……これでもわからないみたいだな」
 本当にお前はバカな奴だ、と嘯いて、彼が呆れたように溜息をつく。眇めた目の色っぽさにどくんと心臓が跳ねた。
「あ、あの……」
「好きだっつってんだよ」
 告げられた言葉に、僕は目を瞠った。
 僕を繋ぎとめる腕に、痛いほどの力がこもる。
「ったく、信じらんねえ。何回言わせりゃ気が済むんだ、バカが」
「え、だって、そんな、今も? 過去形だったんじゃ……」
もう、僕なんてどうでもよかったんじゃ……ぐるぐると思考がうまくまとまらない。
「どうしよう、──嬉しい」
「泣くな、バカ」
「ご、ごめ……っ」
 必死で泣かないように自制したけど、次々溢れて止まらない。どうしよう。こんなんじゃ面倒だって呆れられる。
「あー……いや、いい。泣くなら泣け、好きにしろ」
 ふわりと、意外に思えるほど柔らかい手つきで頭を撫でられた。

「──傍に、いてやるから」

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