ほなみんからもらったイラストを元に イラストは隠匿w
子供っぽい会長閣下とふわふわ喜緑さん
これは、いったいどういう状況なのでしょうか。
「あの、会長……?」
「……」
返事がありません。困りました。
自分なりにこの状況について解析をしてみましょう。早急に推論を立てたいと思います。場合によっては、解析結果から類推される事象をまとめなければなりません。
現在、わたしは身柄を拘束されています。
拘束といっても、それはわたしを縛る枷とは成り得ません。何故ならば、単なる人間の腕が、わたしの体に緩くまわされているだけだからです。
どんなにきつく抱きすくめられたとしても所詮は人間の力。TFEI端末であるわたしにとってみれば、簡単に振りほどけるものでしかありません。
それを知ってか知らずか、わたしの体にまわされた腕の力はごく弱く、わたしが普通の人間であったとしても振り払うことはきっと容易だろうと感じ取れるものでしかありませんでした。
いえ、振り払うまでもありません。
不意をついて伸ばされた腕に引き寄せられた先は、彼の膝の上でした。このままただ立ち上がるだけで逃れることができるでしょう。それはとても簡単なこと。
だからこそ、わたしは戸惑ったのだろうと思います。
「あの……」
困惑を隠せない声に、ぴくりと彼が反応しました。
「くそっ」
不意に、わたしの胸の前で結ばれていた指先が離れていきます。唐突に開放されたことで、それまでの温もりを急速に失っていくことが、少し怖くなりました。
「どうされました?」
「……どうもしてない」
「そういうお顔ではありませんよ」
人間は、何故こんなにもわかりやすい嘘をつくのでしょう。それが美徳ではないとされているのに……とても不思議です。
「お前は本当に、嫌な女だな」
そう思っているのなら、──あなたが振り払えばよいのです。わたしが動かない……いえ、動けない分。
「お前、先週の土曜日に何をしていた」
「映画を見に行きました」
「誰と」
「クラスの方ですが」
「男だろう」
「ええ」
彼は深い溜息をつきます。
何があったというのでしょう?
「お前が付き合ってるのは俺じゃなかったのか」
「はい、わたしはあなたとお付き合いしています」
不機嫌を絵に描いたように、会長の眉間に皺が寄っていきます。……困りました。
「だったらなんで他の男と出かけてるんだ」
「会長は映画がお好きではないと、以前お伺いしておりました」
それはこういった関係になる前の話です。家で見るならばいいけれど、映画館の広いのにやけに閉塞感のある空気が嫌いだとおっしゃってました。
だからお誘いいただいて、見聞を広めるためと思い足を運びましたが、どうやら会長はそれがお気に召さなかったようです。
ですが、あまり怒っているという様子でもありません。
すっかり困惑してしまったわたしは、所在なげに彼の膝の上でおとなしくしていました。
「……申し訳、ありません?」
「何が悪いかわかってないのに謝るな、バカが」
吐き捨てるような口調に思わず身体が強張ります。すると、優しく宥めるように彼の手がわたしの髪を梳きました。
「……観たい映画だったのか」
そう言われて、わたしは映画というものに興味を抱いていた自分を知りました。その映画が観たい、というと語弊がありますが、映画館という空間におけるスクリーンで見る被写体を観てみたいという欲求があったのは事実です。
わたしはそれを余さず彼に伝えました。
「わかった」
外されていた手が、ふわりと再びわたしを捉えます。
「次は付き合ってやるから、他の奴と行ったりすんな」
低い囁きに、我知らず身体が震えました。
わたしに『次』はありません。
わたしに『望むこと』は許されていないからです。
きっとわたしと彼が映画館へ赴くことはないでしょう。それでも、わたしはその言葉をとても嬉しく思いました。
叶わない望みを、持ちたいと願いました。
「……はい」
叶わない奇跡は、常にわたしの中で息づいているのです。
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