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Fatal disease

A5 P44 500円 20090315発行
生徒会長×コンピ研部長氏 R18
ナナメさんのDV会部漫画に触発されました
ひどいの駄目ならオススメできません

表紙:ナナメさん

書店委託:ガタケットSHOP
92.jpg

「退屈だ」
「僕は忙しいんだけど」
「知るか」
 学校では完璧な『生徒会長』の中身がただの不良だと知ったのはひょんなことだった。何のことはない、彼がタバコを吸っているところに行き合わせただけなんだけど。
 それからちょこちょこ言葉を交わすようになって、いつの間にか彼はうちに出入りするようになっていた。素を見せられる相手で一人暮らしという僕の状況は、彼からして見たら格好の獲物だったんだと思う。そして僕のほうはというと、それを不快に感じてはいなかった。
 あんまり他人にプライベートまで入り込まれるのは好きじゃないんだけど、彼のことは最初からまあいいやと許してしまっていた気がする。それがどうしてかは、自分でもよくわからなかったけれど。
「暇つぶしに付き合え」
「だから僕は忙しいんだってば」
 プログラムを作っている最中だっていうのにやたらとうるさい。それでも他人がいることに慣れてきてしまった僕は、肩を引かれたところで諦めの溜息をついていた。
 今日中にある程度形にしちゃいたかったんだけどなあ。
「いいから付き合え、すぐ終わる」
「……なんだい?」
 促されるまま振り向けば、目の前に彼の顔があった。
「……え、何?」
 整った作りをしていることは元より承知の上だけれど、近くで見ると更にその威力を増す気がする。精緻に象られた彫像のような顔から、その一部だった眼鏡が外されて、ことりと机の上に置かれた。素顔の彼を見るのははじめてのことで、その眼光の強さに驚く。目つきが悪いっていうんじゃなくて、いやまあそれもあるんだけど、──射抜かれそうな……それでいて、吸い込まれてしまうんじゃないかと思うような眼をしているのだ。
 一瞬見とれていた自分に気付きハッとして視線をそらすと、彼は不機嫌そうに鼻を鳴らして僕の顎を引っ掴んだ。
「──っ!?」
 彼の顔が更に近くなったかと思うと、唇に柔らかい感触が残る。
「え?」
 なんだ、今の。え、まさか?
「……嫌がらないんだな」
 くくっと喉の奥を鳴らすやり方で笑って、彼は再び僕に口付けた。今度は触れるだけに留まらず、湿った何かが唇を割り開き滑り込んでくる。思わず身を引こうとしたけれど、ぐっと肩を掴まれて引き寄せられた。
 探り当てた舌をきつく吸い上げられると、尾骶骨の下あたりがぞくっとわななく。慣れた動きで歯列を辿り上顎をくすぐる動きに容易く翻弄されてしまった。
「っは……ぁ……」
 やっとのことで開放されたけれど、今起きたことを反芻する間もなく腕を掴まれてぐいっと引っぱられた。たたらを踏んで立ち上がれば、そのまま乱暴にベッドに引き倒される。
「ちょ、冗談きついって、」
「嫌なら少しはあがけよ、つまんねーな」
 そういって僕を見下ろす彼の目が、──欲に濡れているように見えて、僕は息を飲んだ。
顔がどんどん熱くなっていく。
 いや、気のせいだ。こんなのただの冗談で、本気にするほうがどうかしている。
「つまらないってわかったらもういいだろ。どいてくれ」
「嫌だね」
「なっ」
「なんだよ、別にいいだろ?」
 にやりと彼が意地悪く微笑む。格好つけて目を眇めながら片頬を上げる彼を見て、どういう反応をすればよかったんだろうか。その時の僕には、熱く火照った顔のまま、彼を凝視することしかできなかった。
 額に、頬に、瞼に、顔中そこかしこに、彼の唇が掠める。
 僕を見つめている彼の目は、やはり情欲に彩られている。
「退屈なんだよ、付き合え」
「……っ」
 ふざけるな、と突き放せなかった理由は、とっくに知っていた。
目を合わせるたび、言葉を交わすたび、身体が何気なく触れるたび、……僕は、彼に惹かれていったのだと思う。
 それまで自覚はなかったけれど、彼を拒めないのはきっとそのせいだ。それに気付いてしまった。
「……好きにすればいいよ」
「ほう?」
「別に、たいしたことじゃないし」
「好きにしていいんだな?」
 意地悪い声に身体がぎくりと強張ったけれど、僕の口は勝手に言葉を紡ぎ出した。
「……断ったってキミは好きにするんだろ」
「それもそうだな」
 彼は気の利いたジョークを聞いたように機嫌よさげな笑みを浮かべた。
「じゃあ、俺のものになれ」
「は?」
 彼が何を言っているのかわからない。わかりたくないと言うべきか。だけどその目を見てしまったら、理解せざるを得ない。
「いいな?」
 それは確認ですらなかった。そもそも僕には選択肢が残されていない。だって、僕は彼が傍にいることを許してしまっていた。……もっと言ってしまえば、そうあることを望んでいたのは、僕のほうだったのかもしれない。
 きっと彼はそれを知っていたのだ。
だから。
「お前は俺のものだ」
 傲然と言い切った男の笑みが、何故かひどく優しく見えたのは、きっとただの気のせいだ。

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