A5 P32 400円 20080829発行AQUA
表紙・口絵:
ひかにゃんさま 古泉×長門、未来パラレル(他CP要素あり)
古泉と長門が寄り添いあうためのおはなし
書店:K-BOOKS
サンプル
本日のSOS団は、構成人数が常よりもひとり少ない四人となっている。
その理由は、長門さんが先ほどお隣さん(といっても実際はふたつ隣なのだが)のコンピュータ研究部に呼ばれて、席を外しているからだ。何でも重大なバグが出たとかで、長門さんに泣きつきに来たらしい。
彼女は視線を落としていた分厚い文庫本をそっと閉じると、本棚へ音もなく差し込み、ゆったりした歩調でコンピ研部長の元へと赴いた。
「さっさと返しなさいよね」
長門さんが不服を言わないので、涼宮さんは面白くなさそうな顔をしてそれだけ口にした。彼女は長門さんがコンピ研に出入りしていることをあまり快く思っていない節がある。
だが、他ならぬ彼がコンピ研の部長に助勢したことと、コンピ研への出入りを長門さん自身も楽しんでいるようなので、あまり強くコンピ研への出入りを反対することが出来ないのだと、この間朝比奈さん相手に愚痴を零していた。
朝比奈さんはおっとり優しく笑いながら「涼宮さん、さみしいんですね」などと言って涼宮さんの激昂を買い、翌日やたら露出が高く目のやり場にほとほと困る類の衣装を着せられていたことも記憶に新しい。
長門さんがコンピ研部長氏を伴って、文芸部室へ戻ってきたのは、連れられていってから一時間ほど経過してからだった。
コンピ研部長氏は満面の笑みだ。
「本当にありがとう、助かったよ。じゃあまた」
そう言い置いて彼がドアを閉めた瞬間、唐突に涼宮さんが口を開いた。
「絶対あいつ、有希のこと好きだと思うの!」
ガタンッ。
廊下で何かがぶつかったような痛々しい音が聞こえてくる。
……ご愁傷様です。
「有希、いい? あんなのにひっかかっちゃだめよ! あんた可愛くていいこだから、変な男に引っかかるんじゃないかと思うとすごく心配だわ」
「おいおい、ひどい言い草だな」
「ひどくないわよ」
あんなの呼ばわりするのは充分ひどいですよ、涼宮さん。
そう思ったけれど口にはしない。僕は彼女を否定する言葉は紡がない。
本来話の中心にいるべき人物は、何も聞こえていないかのように彼女専用に近い書棚から読みかけの分厚い文庫本を取り出して、定位置に腰掛け、ゆっくりページを繰り始めた。静謐さを絵に描いたような、静物画を観ているような、そんな気分になってくる。不思議だ。
「あんなのに有希が任せられるわけないじゃない。なんかひょろっとしてるし、勉強は出来るかもしれないけどそれだけって感じ。あれじゃ有希はあげられないわね」
あげるあげないの話になっている。
そう思ったら、僕の心を代弁するかのように彼が口を挟んだ。
「あげられないって、元々長門はお前のものじゃないだろ。あんまり勝手なこと言うんじゃありません」
「何言ってるの、有希はあたしのものよ!」
「あー、はいはい」
まともに相手をする気のない返事に彼女はむぅっと頬を膨らませた。はっきりした喜怒哀楽は、彼女の魅力を更に引き立たせていると僕は常に考えている。むっとした様子を見て、機嫌をあまり損ねるのはまずいと思ったのか、彼が水を向けた。
「じゃあ、たとえばどういう奴だったらいいんだ?」
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