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Works

A5 P108 900円  20090814発行
 「会部で社会人パラレル」というテーマにそって
 ゲストさま9名をお呼びした企画本です
 詳細は企画ページをご覧ください
 わたしは短いお話をみっつかきました

書店:ガタケットSHOP

Works告知ページ

追記にサンプル

「ふぅ、疲れた」
 ビルから一歩外へ出た瞬間、思わずそんな声が漏れる。今日は朝からずっと外回りで、今まで客先へ出向くことなんてほとんどなかったから緊張の連続だ。でも思ったより先方には好意的に受け止めてもらえたみたいで、それが救いだった。
 時計に目をやると、時刻は既に十九時を回っている。これから社に戻っても、二十時は軽く過ぎるだろう。直帰になるかなあと思いつつ、携帯電話に手を掛けた。会社に戻るにせよこのまま帰るにせよ、どちらにしても報告はしなければならない。
 会社に電話をすると、お決まりの「本日の業務時間は終了しました」という女性の声に似せた電子音が聞こえてくる。
 ……仕方ない、直接電話するか。
 次に呼び出したのは、僕の直属の上司の携帯番号だ。社長とも言う。
 忙しいはずの相手は、ワンコールも鳴らさないうちにすぐ電話に出た。
「終わったよー、多分大丈夫そう」
『お疲れ様ですとか言えないのか、お前は』
 低いけれど耳に心地良い声が受話器を通して耳朶に流れ込んでくる。どちらかというと威圧的な雰囲気を持っているのに、いつの間にか聞くと安心してしまうようになった声は、間違いなく彼のものだ。
「かたいこと言わないでくれよ。ただでさえ慣れない営業で疲れてるんだからさ」
『……すまんな』
「別にキミのせいじゃないだろ」
 僕の仕事はシステムエンジニアだ。
 SEというと顧客と交渉する形で営業と兼任している場合も多いみたいだけど、ウチの場合は社内LANのインフラ整備やWebサイトの製作、プログラムの構築など、社内での作業が主で対外的に何かをすることはほとんどない。じゃあ何で今回は客先に出向いているかといえば、ちょっとした営業のミスで迷惑を掛けてしまった顧客を相手に、僕がそのフォローに入ることになったからだったりする。
 ミス自体は些細で取るに足らないものだったけれど、だから放置していいのかというと、やっぱりそういうわけにはいかない。納得いくまで説明させてもらったつもりだけど、契約を続けてもらえるかどうかは五分五分っていうところかな。ちょっとした条件をつけてもらったから、それをクリアできれば九割方大丈夫だとは思う。
 このミスに彼は直接関係していない。だから彼の責任ではないのだけれど、僕の仕事が増えたことについて彼は気に病んでいるらしい。そうはいっても前の職場みたいに、残業して当たり前って生活じゃないから僕としては随分楽になったんだけどさ。
『もうこっちには誰も残ってないから、そのまま直帰していいぞ。明日は休みだしな。何ならタクシー使え』
「うん、わかった。……ええと、キミはまだしばらく仕事かい?」
『ああ、事後処理が残ってるんでな』
「そっか……」
 大変だな。
 彼はたいていの場合、社の誰よりも帰りが遅い。社員には基本的に定時で帰れるような仕事量しか割り振らず、残りは自分ひとりで抱えてしまうのだ。別に残業をさせてほしいってわけじゃないけど、なんとなく歯がゆい気分になる。
 それは僕が社員である前に彼の……同居人、だからなんだろうと思う。ただの同居人と言い切ってしまえる関係なのか自信はないけど、他に何て言えば説明できるのかよくわからないから、僕はついついこの便利な言葉を使ってしまいがちだ。
『気をつけて帰れよ』
「うん、お疲れ様」
 それは自然と出てきた言葉だったけれど、彼はそうと受け取らなかったようだ。
『何だ、今更?』
 くくっと受話器の向こうから意地の悪い含み笑いが聞こえてくる。彼の皮肉っぽく見える笑い方が目に浮かぶようだ。紙の擦れる音が受話器越しに流れてくるのは、書類に目を通してでもいるんだろうか。
『まあいい。じゃあな』
 その言葉を最後に、ぷつりと電話は切れてしまった。この様子だと結構仕事が溜まっているのかもしれない。
 ちゃんと食べてるのかな……。
 彼は根を詰めると寝食を忘れてしまうから心配だ。適度に休息を取ったほうが効率はいいのだと何度言って聞かせても直らない。どうやら直す必要がないと考えているらしい。
 心配なんだよね。
 僕が心配したところで、彼にとっては嬉しくもなんともないしむしろ迷惑なんだろうけど、気になるものは気になるんだ。ひとりだって言ってたから、下手すると食事どころか休憩を取ることも忘れてしまうかもしれない。せいぜい眠気覚ましにコーヒーと煙草……それくらいのものかな。簡単に想像できて、しかもあながち外れてないと予測できるあたりがどうかと思うんだけど……抜本的な生活の見直しをはかりたいね。まあ、仕事が詰まってた頃の自分を振り返ると、あんまりひとのことは言えないけどさ。
「うーん……」
 どうせ家に帰ってもすることなんてない。差し入れでもしようかななんて頭に浮かんでしまうあたり、色々負けている気がする。別に勝負しているわけじゃないけど、こんな風に顔が見たいとか会いたいとか考えるのは僕だけだ。
 最近ずっと、彼に触れてない。
 一緒に住んでいるのに時間が合わなくて、家じゃなくて会社で言葉を交わすほうがまだ多いくらいだ。元々一緒に暮らしているとはいっても寝室は別だし、お互いの部屋に入り浸ることはあっても四六時中べったり一緒に居るわけじゃない。ある程度忙しい時期に時間が取れないのは、社会人なんだからしかたないことなんだけど……。
 
 何気なくついた溜息は、存外重かった。

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