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バレンタイン

ちゃんとしてないお付き合い前提会部



 世間はどうやら、バレンタインデー、というものだったらしい。
 いや、まあ、僕ももらったんだけど。クラスの女子に義理チョコを。
 目の前に積み上げられていくあからさまな本命チョコの山を見ていたら、言葉だけじゃなくて実感も伴ったというか、なんというか。
「すごいね」
 貰った分のチョコをありがたくいただきながら、とりあえずそう評してみる。
「すごいうざいな」
 うわ、ひどいや。
 心のこもった贈り物に対して、顔色一つ変えずにそう言い切ってみせる不機嫌そうな姿に、学校での「一見冷たそうだけど実は優しい元生徒会長」の面影は微塵もない。全校生徒を騙しているその演技力には敬服せざるを得ないね。
 メモに名前を書きとめた後は、手紙やカードはろくに読みもせず、乱暴に開けたパッケージもそのままに、床に無造作にチョコが積まれていく。その扱いを見兼ねて苦言を呈そうかと考えたけれど、考えただけで終わった。だってどうせそんなの聞くわけがない。
 無駄なことは極力しない主義の僕は、とりあえず積まれたチョコの整頓をはじめてみた。包装紙が破れてるのは仕方ないにしても、せめて箱の蓋くらい閉じろよ。
「……食うか?」
「は?」
「それ食っていいぜ、俺はいらねえから」
 うわあ、最悪だこいつ。
「いらないよっ。だいたいくれた人に失礼だとは思わないのかい?」
 そう言った途端、あからさまに不機嫌の度合いが増した。ちらりと向けられた視線が、まるで僕を威嚇するかのように見据えてくる。その視線の強さに気持ちが怯んだ。
「甘いもん嫌いな奴にチョコ渡してくんのは失礼じゃないんだな?」
「それ、は、」
 ……しまった。言葉の選び方を間違えた。すぐにそうと悟ったけど、もう後の祭りだ。
「いりもしないもん渡されて、馬鹿みたいに喜んで食べろって?」
「そういう、わけじゃない、けど……悪気はないんだろうし」
「連中は渡せりゃ満足するんだよ。俺が食う食わないなんざ関係ねえ。だから食えないもん平気でよこしてくるんだろ。悪気がなきゃ何でも許されるのかよ、そりゃあ随分おめでたいことだな」 
 吐き捨てるような台詞に、ちくりと胸が痛んだ。
「君が甘い物駄目だって知らなかったからじゃないか、そこまでいうことないだろ」
 一所懸命手作りしたり、わざわざ長時間並んで買ったり、それなりの労力を払ってるに違いないそれらを、まるで嫌がらせみたいに言うのはどうかと思う。
「そういうのって、気持ちなんだからさ。一つ一つに答えろとまでは言わないけど、受け止めてあげるくらいのことはしてもいいんじゃないかな」
「知るか、バカ」
 一言で切り捨てられて、さすがにむっとする。
「それだったらもらわなきゃいいだろ」
「お優しい生徒会長様がんなことできるわけねえだろ」
最後の一つを放り投げ、走らせていたペンを止めて、彼は煙草を取り出した。カチカチとジッポを鳴らして火をつけ、紫煙を燻らせはじめる。
「別にあいつらは俺が好きなわけでもなんでもない。本当に好きな奴が相手だったら、好かれたいと思うもんだ。好かれたい相手の好みも把握してないってのは流石にないだろ。まして嫌いなもんを渡すなんてありえねえ。もし本気の奴が混じってたとしたら、よっぽどのバカってことだな」
 煙と一緒に苦々しげに吐き出される言葉は、誹謗というには的を射すぎていて、僕は彼の視線を受け止めきれず目をそらした。そんな僕に追い討ちをかけるように彼が続ける。
「しかもそういうバカに限って、泣いてわめけばどうにかなると思ってるような奴ばっかだ。こっちの都合なんて考えやしねえ。そんなのまともに相手なんてしてられるかよ。泣かれたってうざったいだけだしな」
「う……」
 その当を得た言葉に、僕はもうそれ以上何も言えなくなってしまった。
 諦めて、僕の貰ったチョコをもうひとつあけて黙々と食べ始める。
「そっちも食うなら食っちまえ。どうせ後は捨てるだけだ」
 その言葉に、思わず溜息をつく。

 ひどい奴だよなあ。

 誰かに好きになってほしくて空回りしてしまう凡人の気持ちなんて、きっと一生かけてもわからない。それどころか気付くことすらないんだろう。最早確信に近い想像に、げんなりする。

あのチョコの贈り主の中には、本命、いないんだろうな。

想像をめぐらせる中、ふとそんなことに思い当たって。
少し、ほんの少しだけほっとした自分に気が付き、一気に顔が熱くなった。
「どうした?」
 食べる手を止めて顔を赤くした僕を見て、声をかけてきた彼に向けて、僕は首を横に振った。
「なんでもないよ」
 僕の方が、君よりよっぽどひどい奴だって気付いただけだ。

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