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通販おまけ0906

会部 部長片思い的な感じ


 六月一日。

 言わずとしれた、衣替えの日だ。
 僕は朝起きてから半袖シャツに身を包み、ズボンを履いてネクタイを締め意気揚々と外へ出た──わけなんだけれど、どうやらこれは失敗だったみたいだ。朝の時点で少し低く感じていた気温は、空がどんよりと曇っていく様子に比例して肌寒さを増している。しかも部活が終わってさあ帰ろうかという段になって雨まで降ってきた。傘なんてない。
 憂鬱だ……。
 それでもずっとここに立っているわけにはいかない。
 帰ったらすぐにシャワー浴びてあったかくしよう。
 そう心に決め、靴に履き替える。肌を撫ぜるひんやりした風に、我知らずぶるっと身体が震えた、その時。
「何をひとりで百面相してるんだ?」
 くくっと喉の奥だけ鳴らすやり方の含み笑いと、威圧的な声が玄関口に響いた。驚いて振り返ると、この学校の生徒会長がにやにやと意地の悪そうな笑みを浮かべて立っている。
「うわ……」
 嫌な奴に見つかった。幼馴染なんだけど、僕はこの男がちょっと苦手だ。
 嫌いかっていわれると、違うんだけどさ。
「なんだ、傘がないのか?」
 やや砕けた調子に、スイッチ入ってないんだな、と思った。スイッチって何だといわれそうだが、そう表現するしかないくらい、彼は裏表が激しい。特に生徒会絡みで何かしている最中は、話し方までガラッと変わる。どっちにしろムカつくくらい男前なのは変わらないんだけどさ。
「そう、だけど……」
「間抜けな奴だな、降水確率くらい見てこいよ」
 せせら笑う表情にさすがにムッとして反駁する。
「キミだって傘もって持ってないじゃないか」 
 彼は鞄を手にしていた。つまりこれから帰るところなのだろう。傘を持っていない以上、僕と条件は同じなんだから、僕を笑うっていうことは自分自身を笑うってことだ。
「傘なら持ってる」
 彼はふっと目を眇めて笑うと、鞄の中から黒い折り畳み傘を取り出した。
「う……」
 形勢逆転。
彼の言う通り、この場で傘を持っていないのはどうやら僕だけらしい。言葉に詰まった僕を尻目に彼は玄関先で傘を開いた。
「送ってやるよ」
「え、でも、」
「何を今更遠慮してるんだ?」
 唇の片端を上げる彼の表情に小さく息を飲んだ。動揺してしまったことを気付かれたくなくて、なんでもないことのように一緒の傘に入る。
「……ありがとう」
「礼を言うより態度で示せ。コーヒーでいい」
 それはつまり家に上げろということかな。
 違っているかもしれないけど、僕は尋ねたりはしない。そういうことなんだと思っておきたいから。
「わかった。コーヒー淹れるよ。それでチャラだ」
「ああ」
 承諾の声が返ってきたことにほっとしてしまった自分が滑稽で笑い出しそうになる。
 折り畳み傘は狭くて、大の男ふたりじゃくっついてないとずぶ濡れだ。それでも彼に身体を寄せる気になれなくて、肩のあたりを犠牲にしてると気付かれた。
「何してるんだよ、バカ。もう少しこっち寄れ」
 ぐいっと肩を抱くように引き寄せられて、どくんと心臓が跳ねる。
「お前、半袖で寒くねーの?」
「少し寒い、けど、」
「やっぱりな」
 するりと肩から滑った指先が、二の腕をなぞった。
「うわっ」
「身体冷えてるじゃねえか。バカだな」
 触れられた部分から一気に体温が上がり、顔まで熱くなっていく気がする。きっとそれはただの気のせいじゃない。こんな反応したらバレてしまうんじゃないかとヒヤッとしたけど、彼は僕が濡れないよう抱きとめたまま、足を速めるばかりだ。
「急ごうぜ」
 耳に流れ込む低い声に、他意はないとわかっていてもぞくぞくっと身体が反応する。キミの声は卑怯なんだよっ!
 微かな煙草の匂いも、服越しに感じる体温も、僕の腕に触れる指先も、まるで拷問みたいだとすら思う。
 相合傘なんて断ればよかった。
 僕は……彼のことが、好きだ。
 彼が僕のことなんてどうも思ってないのはわかってる。そもそも男同士なんだから、そんな対象になるわけない。可能性なんて全然ないのは重々承知の上だ。それなのにこうして優しくされると、余計にきつくて辛い。いっそ泣きたい気分だ。そんなことしたら何事かと思われるだろうから絶対しないけど。
 せめてこの友情をなくしたくない。
「……き、だよ」
「ん? なんか言ったか?」
「ううん、何も」
 雨に紛れた言葉は、僕の思い通り彼には届かない。

 どうか、ずっとずっと届きませんように。

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