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でーと

長部、らぶらぶ、部長がぐるぐる
ひだまりの続きですが単体でも読めると思います




「デートをしよう」
 僕の言葉に、彼女はゆっくりと顔を上げる。黙したままじっと見つめてくるその目は、透明に澄みきっていて何も悪いことをしていないのになんだか謝りたくなってくるくらい真っ直ぐだ。当然謝罪するような必要はないので謝ることもできず、どんどん追い詰められるような気分になってくるのはいつものことだったりする。
「ええと、付き合ってからどこか遊びに行ったことってまだないしさ、だから──」
 これは厳しいかな。
 そう思いながらも、どう話を進めるべきか算段していると、彼女が口を開いた。
「デート──恋愛関係にある二人が、日時や場所を打ち合わせていっしょに外出すること。それで合っている?」
「あ、うん」
 返事が返ってきたことに少しほっとして頷くと、長門さんが注視していないとわからないくらい微かに首を傾けた。
「デートの目的は、お互いをより深く知ることによって、交際を深めること。わたしとあなたは既に肉体関係にあり、これ以上交際を深める必要があるとは思わない」
「いやいやいやいやちょっと待って」
 話は終わったとばかりに手元の雑誌に視線を戻した彼女は、まだ何か話があるのかと訝しげな表情で僕を見上げた。
 普通こういうのって女の子のほうがこだわるものじゃないのかなあ。
 なんだかものすごく情けない気分になってきたけれど、彼女と付き合っていくのならば、こんなことくらいでへこたれるわけにはいかない。長門さんは独自の価値観を持っているけれど、きちんと説明してみせれば納得してくれることは折り込み済みだ。
「確かに僕達はその……そういう関係だけど、僕はそれだけじゃなくてちゃんと付き合いたいんだ。キミのことが知りたいし、僕のことも知ってほしい。好きなものとか、行ってみたい場所とか、きちんと教えてもらわないとわからないから」
 きょとんとした面持ちの彼女は、ちゃんと僕の言葉を理解してくれているのかどうか甚だ疑わしい。苦笑いに近い笑みを浮かべて、僕は言葉を続けた。
「一緒にいるなら、相手のことを理解することはきっと必要だよ」
「……そう?」
「うん」
 彼女は少し思案するような顔になって、やがてこくりと頷いてみせる。
「了解した」
 理解はしたけれど納得はしていない様子の表情を見て、僕は約束を取り付けることができたことを嬉しく思いつつ、苦笑いするしかなかった。
 SOS団とかいうアレの活動がない日を聞いて、お互いのスケジュールを掏り合わせて、そんなあれこれはちょっとだけ楽しかった。





 そして迎えた当日、待ち合わせ場所。

 彼女は僕よりも先に着いていた。だけどそのことを嬉しく思うより、がっかりしてしまったのは……うん、まあ、なんとなく、予想はついていたんだけれど。
「やっぱりか……」
 はあ、と溜息をついた僕を、長門さんは無感情に見上げる。別に怒っているわけでも拗ねているわけでもない。これが彼女のデフォルトだ。
「どうかした?」
「ん、いや、どうもしてないよ。どうもしてない」
 どうもしてないのが、困る……というわけでもないけど、残念、というか。
 待ち合わせ場所に現れた長門さんは、北高のセーラー服を身に纏っていた。……こうなるって、なんとなく予想できていたことが何とも言えない。
 それなのに私服で来てくれとお願いしなかったのは何故かというと、できれば僕と待ち合わせることを彼女自身が楽しみにしてくれるといいな……と淡い期待を抱いたからだ。
「どうもしてない顔ではない」
「うーん、でも本当になんでもないんだよ」
 長門さんにそう指摘されて苦笑したけれど、別に彼女に文句があるわけではない。希望があるならば僕が述べるべきだったのだ。元々長門さんは乗り気とは程遠かったわけで、モチベーションが低いのだから仕方ない。
 だけど長門さんは納得しなかった。ガラス玉のように無機質で透明な瞳が、じぃっと僕を見据える。その視線に圧迫感を覚えて、僕はあっさり白旗を掲げた。
「大したことじゃないんだ。私服がみたかったなあとおもっただけ」
 実は僕がみたことのある彼女の姿は、つきあってもう一ヶ月は経つというのに、制服か部屋着のどちらかだったりする。どこかに出かけるなら、もう少し華やかな格好をしてくれるんじゃないかと思ったことも、外に連れ出した要因のひとつだ。
「……私服」
 休日でもきっちり制服を校則通りに着込んだ長門さんは、ぽつりとそう呟くとかくんと俯いて自分の服装を確認するように視線をめぐらせた。余談だが、北高の校則には休日であっても近隣の繁華街を出歩く場合は制服を着るようにという項目がある。誰も守っているわけがないし、教師に私服姿をみられても説教されるようなことはない、非常に時代錯誤な一文だが、彼女みたいにどこまでも生真面目なタイプだと鵜呑みにしてしまうのかもしれないなと思った。
「制服ではダメだった?」
「え、いや、ダメっていうわけじゃないよ」
「そう」
 実際のところ、長門さんはウチの制服がよく似合っていて可愛いと思う。全体的に色素が薄いから、薄い色合いのセーラー服は彼女にぴったりだ。だからダメだなんてついぞ思ってはいない。
 その思いは彼女にきちんと伝わったようで、長門さんがそれ以上問いを重ねることはなかった。
たまには他の服もみたいなあと思ってしまうけど、隣にいてくれるなら割とそれだけでも充分だったりする。
「あなたが見たいのなら、私服を着てきてもいい。または近隣の店舗で購入し、それを着用することも可能」
「え? あの、そこまでしなくていいよ?」
 長門さんの言葉に少し慌てて声を掛けると、彼女は微かに小首を傾げた。
「それもダメ?」
「だから、ダメっていうわけじゃないってば」
 彼女にしては珍しく、ほとほと困り果てたような表情が声に滲んであらわれている。少なくとも僕のために何かしたいという気持ちは充分そこに見えて、なんだかそれに報いず要求ばかりを彼女に突きつけてしまう自分が極悪人のように思えてきた。
「あなたの希望に添うことは相互理解の一端に繋がると推測される。大した手間ではないのだから、そうするべきとわたしは判断した。……違う?」
「うぅん……そう、なのかな?」
 僕の言葉に彼女はこくりと頷いた。
 それが彼女の示す最大限の譲歩だということはわかっている。僕と一緒にいたいと思ってくれているからだということも知っている。
 でも……だけど、なんていうか。
 キミを僕の言いなりにしたいわけじゃないんだって、キミはちゃんとわかってるんだろうか。キミが言うことを聞いてくれるから好きになったんじゃないよ。
 それをどう言えばわからなくて、言葉を探していると、長門さんがぽつりと呟いた。
「わたしも、あなたのことが知りたいと思った。だからここにいる。──お願い」
 ……すとん、と、胸に燻っていたわだかまりが解ける音がした。
 ああ……うん、こういうところが好きだなあと思う。
「うん、わかった」
 差し出した手に添えられた温もりを、とても嬉しいと感じた。

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