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crime 4

会部





 潤んだ目元が、じっと俺を見据える。いつだってこの目がとても怖い。全てを諦めたような、──それでいて全てを見透かすような視線が、俺を縛り付ける。
 手に入れることが出来たのは身体だけだ。それでも俺には過ぎた僥倖だと知っていたのに、それ以上を求めそうになる。自制がきかない。
「……なんでも、ないよ」
「ふざけんな」
「ふざけてなんかない。……離してくれ」
 潤みきった目から大粒の雫が零れ落ちそうで、それが綺麗だ、と場違いなことを考える。
「なんでもないんだ……っ」
 それは、俺に対する言葉ではなく、自分に言い聞かせているように聞こえた。そんなに辛そうな顔をして、いったい何を抱えているのか……。
「俺には話せないことか?」
「キミには……関係、ないっ」
 その言葉を聞いて、意外なほど落ち着いている自分に苦笑する。関係ないと断じられる程度の付き合い方しかしていないことは百も承知だ。
 手に入らないことは、最初から知っていた。
「わかった」
「……え?」
 身体を離すと、驚いたように目が見開かれた。
拒まれたらそこまでと決めていた。自分を律する程度の理性は、幸か不幸か持ち合わせがある。
 別に、お前を追い詰めたいわけじゃねーよ。
「悪かったな」
「え、いや、」
 当惑を隠せない声を尻目に、合鍵を取り出す。
「返す」
 鍵を差し出したら、そいつは一瞬ぽかんとして、次いで震える手でそれを受け取った。金属の冷たさが離れていくのをどこか物悲しく思いながらも、仕方ないと割り切ることにする。
「もういい」
 こいつのことだから、無理強いすれば流されてくれるんだろう。だけど、もう充分だと思った。未練なんて、あるに決まってるが、それでもこれ以上こいつから搾取しようとは思わないし思えない。
 最後にキスくらい、と思わないでもなかったが、それも全部諦めた。
「もういいんだ」
「そっか……」

 不意に。

 はらりと、そいつの頬に雫が流れて、顎に伝い落ちた。
「!?」
「……ふ……っく……」
 手で顔を覆ってしゃくりあげはじめるそいつの姿に、狼狽が隠せない。指の隙間からぼろぼろ流れる涙に、ぐっと胸が締め付けられた。必死で抑えようとしてるのか、口の端から漏れる嗚咽は短く断続的なもので、だからこそ痛ましい。
「なんで、泣くんだ」
 思わずそんな益体もない言葉が口をついた。
 開放されると知って喜んでいるようにも見えない。これは、いったいなんだ?
「……ちが、これ、は……っ、違うんだ……!!」
 何が違うのか尋ねるのも憚られるような痛々しさに、思わず手が伸びた。細い肩に触れると、びくっと大仰なまでに肩が跳ねる。けれど、抵抗らしい抵抗はない。そのまま引き寄せ抱き締めても、やはり抗うことはなかった。子供みたいに温かな体温が心地よくて、離したくなくなる。さっきまでの決意はどこにいったんだか……都合の良すぎる自分に乾いた笑みが出そうだ。
 小刻みに震える背中をゆっくり撫でてやるうちに、段々落ち着いてきたらしく、ぽつりと呟きが漏れる。
「……ごめん」
 何を謝られたのかが、わからない。けれどそれを口にすることに躊躇いが生じた。
「もう、平気だから」
 そっと俺を押し返そうとした手が、逡巡するように止まり、やがて逆に縋るように添えられた。
「僕達、友達でいられるかな?」
 吐息に近い囁きが耳朶をくすぐる。甘えねだるような響きを伴うくせに、その内容は辛辣すぎて、思わず言葉に詰まった。
「……ああ、やっぱり無理に決まってるよね」
 ふっと温もりが離れていく。照れたように、鼻の頭が微かに赤い。
「……悪い」
「いや、僕のほうこそ、キミの気持ちも考えず勝手なことを言ってすまない」
 困ったように笑う姿が可愛いと思ったが、それを言ってしまっていいものかどうか判断がつかない。
「……ありがとう」
 その言葉の意味はわからなかったが、そう告げたときにそいつが見せた表情は、とても印象的なものだった。

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