B5 P16 200円 20081102発行
長門視点、なかよしSOS団
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「バイトするわよ!」
意気揚々と涼宮ハルヒが大声を張り上げる。涼宮ハルヒに目を向けて、彼は心の底からげんなりしたような表情を作った。
「バイトって、何をするって言うんだ。だいたいいつどこでするつもりだ? 夏休みはあと十日もないんだぞ」
「そんなのもちろんこれからすぐに決まってるじゃない」
こともなげにそう口にする涼宮ハルヒに、彼の眉間の皺が深くなる。
「これから……ですかぁ?」
朝比奈みくるが口元に手を当てて小首を傾げた。その隣では、ポーカーフェイスを崩すことなく、古泉一樹が笑顔を浮かべていた。
わたしは会話に加わらない。観察に努める。
なぜならば、それがわたしのここにいる理由。
「そう、これからよっ」
晴れやかな笑顔が、涼宮ハルヒの面立ちを彩る。わたしは涼宮ハルヒが見せるそういった表情を好ましく思っている。わたしだけではない。ここにいるSOS団の団員と呼称される者は全て、涼宮ハルヒの笑顔を好んでいると推測される。
「あたしの親戚がやってる店で、制服があるから服装は自由」
「なるほど、わかりました」
にこやかに相槌を打つ古泉一樹の隣で、彼が深い溜息をついた。
「何がなるほどだ……ったく」
「なによ、なんか文句でもあるの?」
むっとして口を尖らせた涼宮ハルヒを見て、彼は顔をしかめた。だがそれはすぐに、仕方がないと言いたげな表情に切り替わる。
「いーや、文句はない。好きにしろ」
「そんなことあんたに言われるまでもないわっ」
涼宮ハルヒは団員たちの反応に気を良くしたようだ。鼻歌でも歌い出しそうな満面の笑みで朝比奈みくるとわたしの腕を取り歩き出す。
「はわっ」
予測のつかない動きに引き摺られ、朝比奈みくるがたたらを踏んだ。涼宮ハルヒはそんな瑣末ごとに頓着するつもりはない。朝比奈みくるの体勢が整うのを待たず、そのままずりずりと引き摺って歩いた。
「ま、まってくださいぃ、涼宮さぁん!」
彼と古泉一樹は、わたしたちの後ろをついて歩いてくる。
変わらない、日々。
それは、四千二百九十六回目の、日常。
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