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通販用おまけ0902

喜部
通販用おまけ再録



「あ、あのっ」
「はい?」
 放課後の廊下で、緩やかにウェーブがかった髪をなびかせて、帰り支度を済ませた彼女が振り返る。おとなしそうな美少女を前にして固まりかけたけれど、僕は何とか奮起した。
「喜緑さん、今いいかな?」
「はい、わたしに何か御用ですか?」
 彼女は僕に向き直ると、ふわりと擬音がしそうな柔らかい微笑を浮かべた。微かに視線は逸らしがちだ。
「あ、用っていうわけじゃないんだけど……あのさ、この間予算の件でお世話になったろう? だからこれ」
 小さな包みを差し出すと、彼女はどこか戸惑ったような視線を包みに向けた。
「あ、他意はないんだ。ただのお礼で! バレンタインで逆チョコが流行ってるって言ってたから用意してみたんだけど、もしよかったら受け取ってもらえないかな。たいしたものじゃないけど」
 本当は他意がある。でもそれを今ここで言ってもどうしようもないだろう。彼女はあのいけすかない生徒会長と付き合っているともっぱらの噂だからね。伝える気はなかった、けど少しくらい何かしてみたかった。
「……わたしに、ですか?」
「うん」
「ありがたくいただきます」
 にっこり微笑んで、彼女はそっとそれを受け取った。とりあえず受け取ってもらえたことにほっとする。
「律儀ですね。他の方にも用意されたんですか?」
「え、いや、キミだけにだけど」
 ぽろっと言ってしまってからハッとした。
 二人の間に、沈黙が流れる。冷や汗がダラダラと背中を伝っていた。
 こんな初歩的なミスを犯すだなんて僕としたことが!! ああ、どうしよう。絶対ばれた。
 彼女が不意に、くすっと笑った。持っていた包みを大事そうに鞄にしまうと、さっき僕が渡したものより一回り大きなプレゼントを取り出した。
「では、わたしからも」
「……え?」
 僕はその時さぞかし間抜けな顔を彼女の前に晒していたんだろうと思う。彼女は柔らかな微笑をたたえて、僕が受け取るのを待っていた。そっと差し出されたそれを受け取りながら、僕は内心ものすごく慌てふためいていた。
 な、何が起きたっていうんだ。どういうことだ、これは。
 こんな反応が返ってくるなんて思ってもみなかったから、驚きすぎて頭の中が真っ白だ。
「これって……?」
「バレンタインのチョコレートです」
 いや、それはわかってる。この日にこんな風にラッピングされたプレゼントを渡されて、他のものだと思うわけがない。小さな紙袋に記された店名は、そういうものに疎い僕でも知っているような、高校生が義理で渡すなんてありえないだろう有名店のものだった。
「え、だって、なんで……これって、会長に渡す分じゃ……」
「会長ですか?」
 彼女は微かに首を傾げて、不思議そうに続けた。
「会長に渡す予定は特にありませんけれど」
「ええっ? だってキミたち付き合ってるんじゃっ」
 思わずそう口走れば、彼女は困ったように笑ってこう言った。
「やはりそう思われていたんですね。会長は遅くなると送ってくれますけど、それだけです」
 微笑はいつもと変わりないものだったけれど、どこか寂しそうに見えるのはきっと気のせいじゃない。
「ごめん、そうだったんだ……あ、あの、じゃあこれは……」
「わたしも、」
 彼女は、珍しく真っ直ぐ視線を向けてきた。そして、花が綻ぶようににっこりと笑う。
「あなたにだけです」
 ひそやかな声が告げた言葉。信じがたいけどそれはきっと本当のことだ。
「あ……ありがとう。すごく、嬉しい」
 そんな陳腐なセリフだけれど、彼女は僕の好きな微笑を浮かべてくれる。それがとても、幸せだった。

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